JNTOインバウンド旅行振興フォーラムで読む最新インバウンド動向 市場別の動きから考えるターゲットとする旅行者と誘客のタイミング

じゃらんリサーチセンター

JRC研究員の松本百加里です。2026年9月3日・4日に開催された「第29回JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」に参加してきました。全世界26都市の海外事務所長等から、各市場の最新動向や新たな訪日マーケティング戦略に基づく取り組みを伺い、ガストロノミーツーリズムや高付加価値旅行についても話を聞くことができました。現地の旅行者の姿が伝わる具体例に触れ、市場別の動向を押さえたうえで、どんな人に地域を訪れてほしいかまで考えることの大切さを改めて感じました。

本記事では、各市場の気になる動きや旅行者の意外な一面を紹介しながら、地域の魅力と旅行者のニーズをどう結びつけるかを考えます。中盤には、誘客のタイミングを検討できる「市場別の主要休暇カレンダー」を掲載しました。情報発信や食対応、中国の回復に向けた準備にも触れ、最後に地域で考えたい8つのチェックポイントをまとめています。皆さまの地域で想定する旅行者を思い浮かべながら、ご覧いただければと思います。

米国の最新動向を紹介する講演。講演担当:ニューヨーク事務所長 松本将さん


市場の動向を入口に、旅行者像まで細かく見る

フォーラム全体で繰り返し登場したのは、リピーター、地方誘客、家族・多世代旅行、自然・アウトドア、SNSといったキーワードでした。一方で、その意味は市場ごとに異なります。

台湾は訪日5回以上が半数を超え、10回以上も約4分の1を占める成熟市場です。講演では、台湾を「すでにあるNをN+αにする市場」と表現していました。リピーターが多いうえ、日本のほぼ全国に直行便が就航しているため、地方部を訪れる旅行者をさらに増やせる市場だということです。

香港もリピーターが約9割で、旅行博では観光地の紹介以上に「この地図を使ってどう回るのか」「おすすめのコースは何か」といった質問が多いといいます。魅力的な写真に地図、所要時間、交通手段を添えることで、次の旅行先として具体的に検討する材料になります。

韓国では、海外へ出た人の約3人に1人が日本を訪れるほど、日本が日常的な旅行先になっています。そのなかからは、「韓国人があまりいないところへ行きたい」「もっと長く、ゆったり旅行したい」という声も出ています。多くの旅行者が訪れる市場だからこそ、年代、同行者、訪日回数に応じて提案を変えることが重要になります。

欧米豪でも、初訪日層、リピーター、子連れ家族、3世代旅行、1人旅、スキー・アウトドア層、高付加価値旅行者など、複数の旅行者像が重なっています。米国では、子どもがアニメを通じて日本へ行きたがるために、旅行先が日本に決まることもあるそうです。アニメは若者向けの集客テーマにとどまらず、ファミリー旅行を動かすきっかけにもなっています。ウェルネスにはスパに加え、自然体験や人とのつながりも含まれると紹介されました。例えば、朝の森をゆっくり歩く、地域の人と会話を楽しむ、静かな場所で日常の忙しさから離れる。そんな過ごし方も、心身を整えたい旅行者に提案できそうです。


ターゲットとする旅行者から考える、商品と情報の整え方

ターゲット像を具体化すると、地域が準備すべきものも変わります。

定番の次を探すリピーター

台湾、香港、韓国、シンガポール、タイのリピーターなどには、観光地の基本情報の紹介に加え、季節限定の風景、地域の人との交流、ローカルフード、参加できる祭り、車でしか行けない場所など、次の訪日旅行を楽しみにしてもらえる情報が求められます。

シンガポールの講演では、SNSで桜や紅葉の見頃といった実用情報に反応が集まることが紹介されました。何度も日本へ来ている人には、「美しい景色がある」に加え、「いつ行けば見られるか」が旅を決める材料になります。夜や朝にしかできない体験まで提案できれば、地域での宿泊にもつなげられそうです。

移動と部屋の設計が重要な家族・多世代旅行

フィリピンでは、親、子、祖父母、親戚を含む10人以上でも「家族旅行」です。インドやメキシコでも、日本側が想定するより大きな単位で家族が動くことがあります。

大人数の家族が安心して旅行を計画するには、何人まで同じ部屋に泊まれるか、コネクティングルームはあるか、家族で貸切できる車やバスを利用できるか、長く歩かずに楽しめるか、食事を一緒に取れるかといった具体情報が役立ちます。

米国では、祖父母・親・子の3世代で楽しむクルーズ旅行も定着していると紹介されました。船内での滞在に加え、乗船前後の宿泊や観光まで考えると、港と宿泊施設を結ぶ移動や、世代の異なる家族が一緒に過ごせる部屋の提案も大切になります。

雪やアウトドアを目的に動く旅行者

カナダでは国内スキー場のリフト券が高騰し、航空券を含めても日本でスキーをするほうが総額で安くなる場合があると紹介されました。雪国の旅行者にとっても、雪質、価格、温泉、食、滞在体験を組み合わせることで、日本を選ぶ理由になり得ます。

香港では、香港からアクセスしやすい深圳の室内スキー場で練習し、本番は日本へ滑りに来るという話も紹介されました。旅行前の練習と訪日体験がつながっている点が興味深いところです。日本側も、初心者向けのレッスンや用具レンタル、同行者が滑らない時間の過ごし方まで示すと、旅行を具体的にイメージしてもらいやすくなります。

シンガポールの講演では、国際運転免許やレンタカー利用にも言及がありました。日本と同じ左側通行・右ハンドルであり、海外での運転にも慣れている旅行者がいます。鉄道のアクセスとともに、空港からレンタカーで何分か、冬季運転に何が必要か、駐車場はあるかまで示すことで、地方旅行の選択肢が広がります。

自分が価値を感じるところに使う、高付加価値旅行

豪州の講演では、自分が最も価値を感じる要素に大きく支出する「Selective Luxury」という考え方が紹介されました。旅行のすべてを高級にするというより、本物の体験、自然や地域への関わり、一生に一度の経験など、本人にとって意味のある部分を選んで投資する旅行です。

旅行会社との商談では、酒蔵巡りや金継ぎ、地域ならではのテーマ性のある体験、プライベートな移動手段などが求められたそうです。この話から、地域でも「誰が案内するか」「何を深く知れるか」「どのように快適に移動できるか」を組み合わせて提案することが大切だと感じました。例えば工芸に関心のある旅行者なら、制作背景を聞く時間と体験、工房までの移動を一緒に整えることで、その人が時間とお金を使いたい旅に近づけられます。


旅行者が動く時期を、休暇から考える

ターゲット像と合わせて確認したいのが、各市場の休暇です。旅行需要が生まれる時期は、日本の連休や観光シーズンと同じではありません。

※第29回JNTOインバウンド旅行振興フォーラムの聴講内容・講演資料をもとに、一部の休暇情報は公開情報で補足して筆者作成。JNTOが発行した公式カレンダーではありません。

インドでは4~6月が夏休みで、訪日のピークは5~6月です。スペインは日本が猛暑となる8月でも、家族の夏休みが旅行時期を決めます。豪州では自国の夏休みと日本のスキーシーズンが重なります。中東のGCCでは7~8月の夏休みが旅行のピークとして紹介されました。自然や涼しさを楽しめる滞在を、上質な宿泊や周辺での体験と組み合わせることも考えられます。

フランスでは学校休暇が頻繁にあり、講演では「2か月に1回はスクールホリデーがある」という感覚も紹介されました。夏の長期休暇に加え、冬休み、春休み、秋休みなど、年間を通じて旅行を検討する機会があります。家族旅行を迎えたい地域にとっては、それぞれの休暇と地域の旬を重ねて考える手がかりになります。

さらに、東南アジアや中東などのイスラム圏では、断食明け大祭(レバラン、ハリラヤなど)の祝祭日がイスラム暦に基づくため、毎年およそ10~11日ずつ時期が早まります。数年先まで休暇時期の変化を確認することで、地域の季節資源と重なる年を予測できます。

イタリアでは、2026年4月の訪日客が前年同月比34.3%減となりましたが、講演では、それ以外の月は着実に伸びていると説明されました。4月の減少は、イースターや祝日の曜日配列により、前年は長期休暇を取りやすかったことが主な要因とされています。休暇の時期に加え、祝日と週末の並びによる連休の取りやすさが、旅行時期に影響する場合もあります。前年同月との比較や誘客時期の検討では、その年の日付と曜日の並びまで確認しておきたいところです。

このカレンダーは、「自分たちの地域の旬と、どの市場の休暇が重なるか」「その時期に動けるのは家族か、若者か、シニアか」を考えるための土台になるでしょう。


旅行の時期から、情報を届けるタイミングを逆算する

同じ月に来てもらいたい場合でも、情報発信を始める時期は市場によって異なります。

フランスでは、訪日旅行の手配を半年前から1年前に始める人が多く、まず航空券を取り、その後数か月かけて旅程を組み立てます。一方、タイでは直前割引を待つラストミニット需要が強く、早期予約だけでは捉えきれません。

シンガポールでは、20~30代を中心に金曜夜に出発し、土曜朝に日本へ到着する短期旅行も見られます。大型連休だけを待たず、週末にもう1日休みを足せば成立する旅程も提案できます。

米国のメディアは、すでに翌年以降の記事企画を探しています。講演では2026年の時点で2027年の新しい話題が求められていると紹介されました。地域が掲載してほしい時期に情報を出すのでは遅く、旅行者、旅行会社、メディアそれぞれの検討時期から逆算する必要があります。


AI時代に重要になる、地域の具体的な一次情報

旅行計画に生成AIを使う人が増えるなか、地域が提供する情報の正確さや具体性も重要になっています。

複数市場の講演を通じて共通していたのは、公式サイト上に次のような情報を正確に掲載することが重要だと分かります。

  • 空港や主要駅からのアクセスと所要時間
  • 営業日、営業時間、季節運休
  • 料金、予約方法、キャンセル条件
  • 対応言語
  • 荷物、大型バス、駐車場に関する情報
  • 食事制限への対応範囲
  • 子ども、高齢者、車いす利用者が参加できる条件
  • タトゥーのある旅行者が利用できる温泉や貸切風呂
  • 写真だけでは分からない体験の流れ

AIが参照するのも、旅行者が最後に確認するのも、こうした具体的な情報です。タイの旅行会社が知りたいのは「魅力的な観光地です」という説明より、大型バスが進入できるか、駐車場から何分歩くかという情報でした。香港の旅行者には地図とモデルコースが求められています。豪州ではタトゥーフレンドリーな温泉の一覧やマップが役立ちます。

一方、AIで簡単に得られる一般情報だけでは、記事や旅行商品の価値が下がります。そこで重要になるのが、現地でしか会えない人、限られた時間だけ参加できる行事、土地の成り立ちと食文化の関係など、地域自身が持つ一次情報です。 ガストロノミーツーリズムのセッションでは、その土地の食文化は大地の成り立ちに由来するとの考え方から、具体例として讃岐うどんを小麦、塩、水、だしから、地質、降水量、ため池、海の成り立ちまでつなげて語る例が紹介されました。「おいしい」だけで終わらせず、なぜこの場所でこの食文化が生まれたのかを示すことで、食事がその地域を訪れる理由になります。

ガストロノミーツーリズムのパネルディスカッション。地域資源の掘り起こしとストーリー化をテーマに、杉山尚美さん(ガストロノミーツーリズム研究所)、長谷川修一さん(香川大学)、野田達也さん(PLUM KNOT/Innovative Kitchen 8go)が登壇

地域ならではの学びという点では、MICE(企業の会議・報奨旅行など)のセッションで紹介された防災の事例も印象的でした。2026年2月のタイの旅行会社向け招請事業では、池袋防災館で地震を体験し、身を守る方法を学ぶ視察が組まれました。日本が蓄積してきた防災の知識や経験も、海外から訪れる人にとって学ぶ価値のある体験になると感じました。


食事を安心して選べる情報を届ける

旅行者像を具体化すると、食の課題も見えてきます。

インドでは、商談の際に必ずといってよいほどベジタリアン対応が話題になるといいます。ただし、最初から完璧な専用厨房を求められるとは限りません。本人が食べられる料理や菓子を見分け、自分で選べる状態をつくることが重要です。ベジタリアン向けの菓子がないことで、カフェでの滞在時間が短くなるという指摘もありました。

マレーシアは、マレー系、中華系、インド系で宗教、食習慣、利用する情報源が異なります。「マレーシア向け」と一括りにせず、ムスリム対応の範囲、原材料、調理環境、礼拝場所などを具体的に示す必要があります。

フィリピンの旅行者には、旅館でご飯を先に出すと喜ばれることがある、という話も紹介されました。食べ方や提供順への小さな配慮も、旅行者の満足度につながります。


中国の変化を踏まえ、今やるべき対応を

中国市場の顧客層やトレンドは、昨今の情勢を受けて大きく変化しています。現在も訪日している「明確な目的を持った個人旅行者」を意識した取り組みが必要であると説明されました。

現在は、中国からの訪日客数の減少により、中国のSNSにおける日本関連の話題が減っている一方、訪日中国人に占める個人リピーターの比率は上昇していると指摘されました。また、情報収集の方法にも違いがあり、訪日初心者は生成AI、訪日経験が豊富な層はSNSやOTAに加え、公的機関が発信する公式情報を重視する傾向があると紹介されました。

現在の市場の変化を踏まえると、個人リピーターが「次はこんな旅をしてみたい」と感じるような、新しい切り口と具体的な旅の提案を、SNSなどを活用しながら継続的に発信することが重要との考えが示されました。

高付加価値旅行については、単なる高級化ではなく、「特別感のあるコンテンツ」を整備することが旅行者の誘致につながるとしています。


地域で考えたい8つのチェックポイント

フォーラムの内容を地域の実務に落とすと、次の順で整理できます。

1. どの市場を対象にするか
現在の宿泊者数、航空アクセス、地域との相性から候補を選ぶ。

2. その市場の、どんな旅行者を呼びたいか
初訪日かリピーターか、家族か1人旅か、旅行目的は何かを決める。

3. なぜ自分たちの地域を選ぶのか
旅行者にとって訪れる意味や、他地域との違いを言葉にする。

4. いつ来てもらいたいか
地域の旬と市場の休暇カレンダーを重ねる。

5. いつ情報を届けるか
旅行日から、予約・商品造成・記事企画の期間を逆算する。

6. どの情報経路を使うか
AI、検索、SNS、OTA、旅行会社、トラベルアドバイザーを使い分ける。

7. 旅行を止める不安や障壁は何か
交通、食、部屋、言語、入浴、予約条件などを具体的に確認する。

8. 来訪後の成果をどう捉えるか
来訪人数や延べ宿泊者数に加え、平均泊数、地域内周遊、体験参加、地域での消費、再訪など、地域が重視する成果を確認する。


おわりに 市場の理解を、地域で想定する旅行者像につなげる

市場分析は、対象となる市場を決めるところから始まります。さらに、その市場の中にいる旅行者を具体的に描き、地域との接点を見つけ、動ける時期に合わせて必要な情報を届けることで、施策へ落とし込めます。 市場別の動向を押さえながら、ターゲットとする旅行者の姿や、旅行に出かけやすい時期、地域で楽しんでもらえる体験を具体的に考える。そうすることで、商品づくりや情報発信、受入準備で取り組むことが見えてくるのではないでしょうか。



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