2026年3月4日、ドイツ・ベルリンにて開催された国際認証団体「Green Destinations」によるStory Awards ITB Berlinにおいて、関門エリア(福岡県北九州市・山口県下関市)がデスティネーション・マネジメント部門で世界第3位に選出されました。この部門でのTOP3入りは、日本の地域としては初めての快挙です。

写真中央右が関門DMO代表理事 巌洞秀樹氏、中央左がディレクター 末吉春香氏
私も2024年からこのプロジェクトに携わってきましたが、受賞までの道のりは場当たり的な施策の積み重ねではなく、一つひとつ論理的に段階を踏んだものでした。世界が関門エリアのどこを評価したのか、その裏側を5つのステップに沿って共有します。
実績を積み上げた変革の5ステップ
ステップ1:インフラを”つなぎ手”に変える観光エリアの再定義
関門DMOがマネジメントを行うエリアは、北九州市と下関市にまたがる関門海峡沿岸です。行政区分は異なるものの、生活圏が一体化しているという珍しい特徴を持つ観光地でもあります。これまでは海峡が持つ景観の美しさや巌流島といった歴史・文化を中心に地域の魅力を発信してきましたが、地域経済の循環をさらに促すためには、下関と北九州を「一つのつながった観光エリア」として再認識してもらう必要がありました。両岸がシームレスにつながることで初めて活発な周遊が生まれ、それが地域全体の活性化に直結するからです。こうした両岸のつながりを実現しているのが、橋、船、海底トンネルといった交通インフラです。関門DMOでは、これらの交通インフラそのものを観光資源として活用する取り組みを推進しています。本来、観光の枠組みとは別に運用されてきたこれら大規模インフラの事業者の皆様を巻き込み、地域の”つなぎ手”としての役割をDMOが主体となって担ったことが、一体型の観光地域づくりに向けた大きな一歩となりました。

関門海峡の夜景と2市をまたぐ関門橋
ステップ2:関門海峡観光振興ビジョンの策定
DMOメンバーは、一体型の観光地域づくりに向けた取り組みを始めるために、地域の観光事業者とともに、観光庁の事業支援を受け、GSTC(世界持続可能観光協議会)の公認トレーニングを受講。あわせて「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」による自己分析を徹底して行いました。このプロセスを通じて国際基準を正しく理解したうえで、地域のマネジメント体制の見直しと観光の方向性について議論を重ねました。

GSTC(世界持続可能観光協議会)の公認トレーニング
これらを踏まえ、2023年10月、地域が目指すべき将来像を明文化した「関門海峡観光振興ビジョン」を策定。行政区の壁を越え、持続可能な観光地づくりを地域全体で進めるための明確な指針となりました。
ステップ3:地域全体の目線を一つにする勉強会
2024年度には、関門海峡エリアの観光事業者や行政機関とともに、持続可能な観光をテーマにした全3回の勉強会を実施しました。国際認証の基準に基づいた地域マネジメントを目指す意義や世界のトレンド、そして世界基準から見た関門海峡エリアの立ち位置を、関係者全員で共有することが目的です。
私は第3回目の講師を担当し、サステナブルツーリズムの実証事例※などをもとに、サステナブルな情報を整理・発信することが海外旅行会社の満足度や地域のイメージ向上にいかに直結するかを解説しました。
※「サステナブル」を軸にインバウンド旅行者の誘客促進調査
https://jrc.jalan.net/surveys/inbound_sustainable/
ステップ4:世界基準で現在地を確かめるアワードへのエントリー
ステップ1で触れた関門橋や海底トンネルを運営しているのが、九州旅客鉄道(JR九州)や西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)といった民間企業です。関門DMOでは、これらインフラの維持管理を担うバックヤードに着目し、「インフラツーリズム」として再定義したうえでツアーの実施に踏み切りました。こうしたインフラの裏側を体験として見せる取り組みは、海外では非常に高い付加価値を持つ体験として評価されています。
ただし、関門DMOが重視したのは、体験そのものの魅力だけではありません。そもそもインフラのバックヤードは観光資源として想定されておらず、その開放は簡単に実現するものではありません。「なぜバックヤードを開放するのか、その先にどのようなビジョンを描いているのか」を企業と関門DMOが丁寧に対話を重ね、共通の目的意識を築いていくプロセスが不可欠でした。関門DMOは地域周遊を実現するために行政区の垣根を越えたマネジメントを担うとともに、こうした対話を通じて民間企業との信頼を築き、インフラを観光の文脈に組み込んでいきました。
この二つの連携を一つのストーリーとして構築し、インフラを単なる通過点ではなく、人と地域を繋ぎ直す舞台として再定義し、デスティネーション・マネジメント部門へエントリーしました。関係者の方々にとって、これは自分たちの取り組みが世界基準でどこまで通用するのか、その現在地を確かめるための挑戦でもあったと感じています。結果として、関門海峡を支えるインフラとそこに携わる人々を観光のシンボルに捉え、異なる行政区・異なる業種の関係者が一つの地域として一体的にマネジメントした仕組みが、世界に評価されました。

デスティネーション・マネジメント部門で世界第3位に選出
ちなみに、受賞にあたって地域の観光写真を何枚か提出したところ、選ばれたのは夜景の写真だったそうです。北九州の夜景は「日本新三大夜景都市」ランキングで1位に輝いていますが、海外からも同じ視点で評価されたことは、関係者にとって大きな喜びとなりました。
ステップ5:受賞をゴールにしない官民横断の連携体制づくり
2026年1月、受賞結果を関係者に共有するとともに、今後の方針や地域のインフラ事業者との情報共有を行う新たな会議体として「関門海峡インフラツーリズム推進連絡会議」が開催されました。インフラ事業者や民間企業だけでなく、地方整備局・運輸局・行政機関も参加する、官民横断の枠組みです。受賞はゴールではなく、この先の取り組みを加速させるための起点と位置づけています。
私もこの会議に講演者として参加し、持続可能な観点から見たインフラツーリズムの意義について、3つの視点を提言しました。既存資産を活用する環境負荷の低減、観光収益をインフラの維持管理費へ還元する経済的な循環、そして見慣れた風景を支える技術を知ることで生まれるシビックプライドの醸成です。あわせて、海外におけるインフラツーリズムの事例も紹介しながら、インフラを地域や企業にとっての学習・体験の場へと発展させていく重要性を共有しました。

関門海峡インフラツーリズム推進連絡会議
当日は会議の参加者で、NEXCO西日本が管轄する海底トンネル「関門トンネル」のバックヤードツアーを視察しました。現場を管理している方々から直接ガイド説明を受けることで、インフラ維持の裏側にある技術や想いを深く理解する機会となりました。前回DMOが実施したツアーと比べると、解説用のパネルやマイクといった備品も充実し、ツアーそのものの完成度も着実に上がっていると感じました。
現在、関門海峡では、老朽化する既存ルートを補完する3本目の道路として「下関北九州道路(下北道路)」の建設が計画されています。この道路の開通により、これまでアクセスが難しかった下関の彦島エリアへの人の流れが生まれることが期待されています。一方で、同エリアではこれまで本格的な観光振興の取り組みが行われてきませんでした。新たなインフラの誕生をまちづくりや観光振興にどう活かしていくか、下関市の関係者との会議を別途実施し、私もアイデアを提言させていただきました。

関門トンネルバックヤード視察ツアー
関門エリアでは、国際的な基準や評価を踏まえつつ、関門海峡の自然や、日本遺産に認定された門司港レトロ地区の歴史的建造物群に加え、これまで紹介してきた交通インフラ群もユニークベニューとして活用した、小規模なMICEの受入体制の構築を計画しています。活用を予定しているインフラ群には、工場夜景クルーズや水素とバイオディーゼル燃料を活用した国内初の旅客船、さらに2026年3月から西鉄バスが運行を開始するオープントップバスなども含まれています。高い車窓からはまるでSF映画のような工場地帯を見渡すことができ、関門海峡ならではの体験となるはずです。
特に北九州市は、八幡製鉄所(現在の日本製鉄)を起点とする日本の近代産業発祥の地であり、現在もTOTO(衛生陶器・住宅設備)や安川電機(産業用ロボット)をはじめ、ロボット・環境・素材・エネルギーといった先端産業が集積するものづくり都市です。こうした産業基盤を背景に、工学・製造・環境技術・ロボティクスなどの産業系学会との親和性が極めて高いと考えています。

歴史的にも重要な国際ターミナルの建築物(旧大連航路上屋)

研究員の視点:地域マネジメントの可能性を示した関門モデル
今回の取り組みを振り返って強く感じるのは、DMOが担う地域マネジメントの可能性です。「行政区を越えた連携、民間企業との信頼構築、国際基準に基づく体制の整備、そしてそれらを一つの物語として発信する」この地道な積み重ねが、地域の価値そのものを形づくっていきます。世界第3位という評価は、関門エリアが持つ独自の価値が国際的に認められた証であると同時に、DMOを中心とした地域マネジメントのあり方が世界に通用することを示した結果でもあります。こうした体制は一朝一夕に築けるものではありません。Green Destinationsでの受賞という実績を力に、関門エリアの取り組みが、地域住民と来訪者の双方にとってより豊かなものへと深化していくことを期待しています。
松本百加里研究員の研究内容は下記より確認ください。

「サステナブル」を軸にインバウンド旅行者の誘客促進調査 https://jrc.jalan.net/surveys/inbound_sustainable/
インバウンド旅行者の主要周遊ルート調査
https://jrc.jalan.net/surveys/inbound-route/
インバウンド都道府県ポジショニング調査
https://jrc.jalan.net/surveys/inbound-positioning/
AIエージェント活用による持続可能な観光地域経営モデルの研究
https://jrc.jalan.net/surveys/generative_ai2026/
