課題解決型の地域づくりは、なぜ続かないのか?――「奈良コクリ!」で市民発プロジェクトが生まれ続ける“共創”の仕組み 

地域づくりの多くは、「地域の課題は何か」から始まります。 
課題を洗い出し、打ち手を考え、担い手を探す。 
けれど、予算が切れると活動が止まる、集まるのはいつも同じ顔ぶれ、担い手が疲れていく――そんな悩みを抱える地域も少なくありません。 

奈良には、その逆で、 
「課題」ではなく、一人ひとりの「本当はこれがやりたい」から始める地域づくりがあります。2023年から続く「奈良コクリ!」です。 
行政主導ではなく、地域の人たちが自ら企画運営する取り組み。 
観光、鉄道、電力、福祉、飲食、教育、環境、行政と、 
立場も世代も異なる人たちがつながり、市民発のプロジェクトが次々に動き出しています。 


▲2026年夏の第4回奈良コクリ!キャンプ。信貴山の宿坊に、奈良にゆかりのある約50人が集まった 

この記事でわかること 

  • 課題解決型と「やりたい型」、地域プロジェクトの始まり方の違い 
  • コクリ!の3つのステップ「未分化→GI→クリエーション」 
  • 共創が起こる人の集め方・場所の選び方 
  • 3年間で生まれたものと、見えてきた壁 

1. 「コクリ!」と「奈良コクリ!」 

「コクリ!」は、コ・クリエーション(共創)によって地域や社会の大きな転換を目指し、2011年にじゃらんリサーチセンター研究員の三田愛が発起人となって始まった、実行委員会形式のプロジェクトです。 
「100年後からみて、ここから歴史が変わったと言われる社会実験」を合言葉に、全国約300人の地域リーダー・行政職員・経営者・農家・教授・クリエイターなどと、共創が「偶然」ではなく「必然」で起こる条件とプロセスを探ってきました。 

テクノロジーを最大限活用し、都市集中型だけではない地域の未来に向けて活動する「風の谷」プロジェクト、島根県海士町発の出版社「海士の風」、農林水産省のデジタル政策推進チームの新コンセプトなどが、コクリ!をきっかけに生まれています。 

▲コクリ!発起人の三田愛。奈良コクリ!キャンプでは伴走役として全体の進行を担う 

奈良コクリ!は、奈良市の創業支援施設BONCHIを運営する一般社団法人TOMOSUと地域のメンバーが実行委員会をつくり、自ら企画・運営する、初めての「地域版コクリ!」です。

奈良市は国際観光都市でありながら、観光客の滞在時間が短く、大都市のベッドタウンとして県外で働く人も多いまちです。知名度は抜群でも、地域の内側では「担い手」と「つながり」が足りていない。そこで実行委員会が掲げた北極星が、この言葉です。 
 

「土」とつながり、「人」がまざりあい、古くて新しい奈良をつくる 

▲今年の会場、信貴山。日本最古の毘沙門天王の霊場として知られる 
 

2. 課題解決型の「次の一手」 

奈良コクリ!チームが環境省との振り返りで整理したのが、この図です。 

一般的な地域プロジェクトは「課題は何か→打ち手は→誰がやるか」の順で始まります。 
網羅性はある一方、予算ありきで主体性が生まれにくく、関わる人も限られがちです。 
 
奈良コクリ!は「個人の想い(種火)→やりたいと周りに話す→周りが応援する」の順。 
最初は網羅性が低くても、当事者意識が高く続きやすい。 
業界を超えた仲間が加わり、結果的に他の課題解決にもつながっていきます。 

▲課題の一覧ではなく、一人ひとりの「やりたい」から話を始める 


背景にあるのは、動機の違いです。 
ギャップを埋める「やらねばサイクル」は、片付けば終わり、やがて活動が低下します。 
純粋な目的から始まる「やりたいサイクル」は、前進と達成感が次の行動を呼びます。 
 

そして、その土台になるのが「関係の質」です。 

MIT組織学習センター共同創始者のダニエル・キム教授が提唱した「成功循環モデル」では、関係の質が上がると、思考の質、行動の質、結果の質が続いて上がっていきます。結果を急ぐ前に、まず互いを深く知る。 
 
そのための方法が、次に紹介するコクリ!の3つのステップです。 

 

3. コクリ!のツボ――「未分化→GI→クリエーション」 

私たちは普段、役割や肩書き、ロジック、計画といった「分化」のモードで仕事をしています。会議もワークショップも、たいていはこのモードのままです。コクリ!が長年の実践でたどり着いたのは、一度このモードから離れることで、予想もしなかった共創が生まれる、ということでした。 



ステップ1 未分化――肩書きを脇に置き、「根っこ」でつながる 



まず、役割や肩書きをいったん外し、一人ひとりの想いや感情、感覚に耳を澄ませる「未分化」の状態に入ります。 

奈良コクリ!では、地元の山伏による法螺貝と詩の朗読から始まり、人生のエピソードを語り合う「根っこストーリーテリング」、信貴山の中で一人静かに過ごす時間へと進みます。 


▲地元の山伏が吹く法螺貝で、2日間が幕を開ける 

▲初対面でも、人生のエピソードを語り合うと一気に距離が縮まる 

▲信貴山の中で、感じたことを一人静かに書き留める 

参加者はこの時間を、こんな言葉で振り返っています。 

「分からなくても分からないなりに言葉にすると、それを人が拾って違う言葉にしてくれたり、発展させてくれたりする。改めて感動しました」 

「日中のグループ行動やお泊まりを通して、腹割って初対面の人や植物と話せた。まさに根っこがつながる経験でした」 

宿坊に寝泊まりを共にするからこそ、食事や夜のひとときなど、プログラムの外で交わされる何気ない会話も、関係を深める大切な時間になっています。 

ステップ2 GI――想いの奥にある「地域の痛みと願い」を感じとる 

GI(ジェネレイティブ・インテンション)は「立ち現れつつある意図」。 

一人ひとりを通して現れようとしている、地域や社会の「痛み」や「願い」のことです。 
これをつかむためにコクリ!が開発したのが、 
意識を時間軸と空間軸に広げる「時空間拡大ダイアログ4rooms」。 
広間を「内・外・過去・未来」の4つの部屋に分け、 
問いのカードをめぐりながら語り合います。 
問いがあらかじめ用意されているので、プロのファシリテーターがいなくても深い対話が可能です。 

▲「内・外・過去・未来」の4つの部屋 

▲各部屋に置かれている問いのカード。1人1枚を選ぶ 

▲引いたカードの問いに、その場で出会った仲間と向き合う 

「7世代前の祖先がこの時代にやってきたら、何に驚くと思いますか?」  
「7世代先の子孫は、あなたが今取り組んでいることにどんなアドバイスをすると思いますか?」 
「私たちがこの世界を次のステージに進めるために、手放すべき価値観や固定観念は何でしょう?私たちはどんな前提にとらわえているのでしょう?」 
「最近イラッとしたこと、不本意に思ったことは何ですか?その奥にはどんなことを大切にしている自分がいそうですか?」 

 
問いは「ライト」と「ディープ」の2段階で用意されていて、少しずつ深く潜れるようになっています。大切にしているのは、自分でカードを選んだのではなく「カードに選ばれた」という感覚。人間がコントロールできない大きな流れからの問いかけとして受け取ることで、頭で考えた答えではない言葉が出てきます。 

米づくりに携わる参加者は、「子孫からの問い」をきっかけに、コクリ!キャンプ後こう書き残してくれました。個人の想いの奥から、地域の「痛み」と「願い」が浮かび上がった瞬間です。 

「ニュースで『熊が山を降りた』『鹿が奈良公園を出た』と耳にすることが増えました。熊や鹿の行動の変化と、私が田んぼで感じる変化は、実は同じ一本の線でつながっています。(中略)人と自然の距離は、このままでよいのだろうか。その問いに、私は田んぼから答え続けたいと思っています」 

ステップ3 クリエーション――共創の力で、形にする 

願いが見えたら、今度はいつもの「分化」モードに戻ります。役割、専門性、計画といった力を使って、仲間とともに具体的な形にしていく。未分化から始めた分、そのアイデアには本人の熱量が宿ります。 

▲1人静かに自分の内側と向き合う時間もとり、湧き上がる想いを言語化する 

▲見えてきた願いを、仲間とともに具体的な形にしていく 

 

4. 共創が続く「人」と「場」のつくり方 

いきなり大勢を集めない――1人→コアチーム→コミュニティ 

3つのステップは、コクリ!キャンプ当日だけのものではありません。 
まず主宰する「1人」が自分の想いとつながり、 
次に立場の異なる「コアチーム」が同じプロセスをたどり、 
そのコアチームが「コミュニティ」を生み出します。奈良コクリ!も、まちづくり系・ビジネス系・自然系という異なる背景を持つ3人から始まりました。 
 

肩書きではなく「あり方」で招く 

コクリ!キャンプは招待制。各組織の代表を集めるのではなく、実行委員会が3年間で磨いてきた次の基準で声をかけています。 

 
「形にする力」は必須ではなく、あれば助けになるもの。 
内輪にならないよう、一部に「チャレンジ枠」も設けています。 
コクリ!キャンプは招待制でも、そこから生まれた実践は誰でも関われる開かれた場です。 

クローズドであることと、固定的であることは違う。(奈良コクリ!実行委員会) 

 
今年の参加者の所属は、たとえば次のとおりです。 

▲立場も世代もばらばらな参加者が、肩書きなしで自分の言葉で語る

 

場所の力を借りる 

未分化に入るためには、場所も大切です。 
奈良コクリ!は、普段は外部に貸していない東大寺勧学院での開催、さくらいの郷を会場にした回の三輪山への登拝、今年は信貴山の宿坊への宿泊と、毎回その土地ならではの場所とのつながりを大切にしてきました。 
特別な場所でなくても、木の建物、自然が見える部屋、心を込めた掃除や手書きのウェルカムボードだけでも、場の空気は変わります。 

▲手書きのウェルカムボード。部屋に入る前から場づくりは始まっている 

 
種火を生む「コクリ!キャンプ」と、育てる「コクリ!ラウンジ」 

合宿で生まれた想いは、日常に戻ると消えてしまいがちです。そこで実行委員会が2〜3か月に1度、ラウンジを自主開催し、進捗を共有したり新しい種火を持ち寄ったりしています。 

 

5. 3年間で生まれたもの 

 
変わったのは、活動だけではありません。 
森林と文化をつなぐ構想を温めていた参加者は「コクリ!で覚悟が決まった」と語り、その構想は来年から吉野で本格始動します。 
Web制作の仕事をしていた人はまちづくりの担い手になり、コクリ!キャンプでの出会いがそのまま協働の仕事になった人もいます。 
運営を担うメンバーは10名程度に増え、今年は参加者だった2人も運営チームに加わりました。 
「みんなの春日山ラボ」は外部資金も得られるようになり、関わる人の輪は奈良市から県内各地へと広がり始めています。 

最初から万能なリーダーが必要なわけではない。一人では踏み出せなかったことも、仲間となら動き出せる。(奈良コクリ!実行委員会) 

コクリ!キャンプ後の振り返りシート「追い風シート」には、こんな声が届きました。 

「ひとりで抱え込まず、他者や自然と共に考えると、意思決定の質が変わる。それを身体で確かめた時間でした」 

「同じ問いなのに、答える自分が深くなっているのがわかる」 

「4回目の今回が一番安心して、リラックスして過ごせた」 

「毎回消化不良で、終わってからじわじわといろいろなことを思い出します。でもそのモヤモヤ感が大事なんだと思います」 

終わった瞬間に答えが出る場ではなく、持ち帰った問いが日常の中で発酵していく。 
それをラウンジで拾い直し、形にしていくのが奈良コクリ!のリズムです。 
 

6. 見えてきた壁と、これから 

種火は生まれた。でも、その先に壁も見えてきました。 
「応援したい」気持ちはあるのに、「応援できる」とは限らない。 
本業に追われて地域活動が後回しになる。 
応援する側は「自分に何ができるか」、挑戦する側は「何を助けてほしいか」を、まだ言葉にできていない。 

実行委員会はこれを「利他性が足りない」のではなく、 
応援する側・挑戦する側の両方で「できること」と「必要なこと」の解像度が足りない、と捉えました。 
そして、今後に向けて、次のアイデアを考えています。 

  1. 種火を思い出し、まだ話せていない人とつなぐ:50人規模のコクリ!キャンプでは、話せる相手は限られる。ラウンジで種火を話し直し、「この人と話したい」をつなぐ 
  1. 期間限定の「お試し参加」:1〜3か月、一緒に活動してみる。動く中で、互いの「できること」と「してほしいこと」が見えてくる 
  1. 連絡の場をひとつに:年ごとに分かれた連絡の場をまとめ、「ちょっと手伝ってほしい」を発信しやすくする 

実行委員会がいま向き合っている問いは、多くの地域にも共通するはずです。 

本業がある中で、地域活動の優先順位をどう上げられるか。 人や関係性の変化という見えにくい成果を、どう捉えて見える形にするか。 

今年のコクリ!キャンプからも、「奈良の源流や文化をめぐる体験プログラムをつくりたい」「学校の先生と対話の場をひらきたい」といった新しい種火が生まれています。変化は直線ではなく、ある時から急に動き出すもの。土壌を耕し続ける挑戦は、これからも続きます。 

 

7. あなたの地域で試せる6つのこと 

  1. 議題の前に、想いを話す:会議の冒頭に「このまちで暮らして(働いて)よかったと思ったのはどんな時?」を、エピソードで話す時間をとる 
  1. 肩書きではなく「この人と話したい」で誘う:想いのある人を、業種・世代がばらけるように 
  1. まずは3人のコアチームから:立場の異なる3人で「何を大切にしたいか」を語り合う 
  1. いつもの会議室を出る:木の建物、自然が見える部屋、地域の人が大切にしている場所で開いてみる 
  1. 将来世代の目で問う:「7世代先の子孫なら、この計画にどんなアドバイスをするだろう?」と問いかけてみる 
  1. 当日より「事前」と「事後」に力を:終わったあと、2〜3か月に1度ゆるく集まる場を決めておく 

おわりに 

地域は、課題を並べるだけでは動きません。 
一人ひとりの「本当はこうしたい」が仲間と出会い、立場を超えてつながったとき、思いもよらない未来が動き出します。奈良で生まれているこの変化が、皆さんの地域づくりのヒントになれば嬉しいです。 

 
 
もっと知りたい方へ 

  • ▼奈良コクリ!キャンプの映像 

▲第四回奈良コクリ!キャンプ、終了時の笑顔! 

三田 愛(さんだ あい)/リクルート じゃらんリサーチセンター研究員 

<三田研究員の研究内容はこちら> 

▼研究年鑑2026 
「日本の精神性を感じる旅研究 見えないものを観る“あわい旅”」 
https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2026/03/2026-nenkan-theme5.pdf 

▼地球コクリ!ホームページ 
https://earth.cocree.org/ 

▼地球コクリ!短編アニメ映画「Re-member」 
https://earth.cocree.org/remember/ 
 
▼その他、三田研究員の経歴・過去研究 
https://jrc.jalan.net/staff/researcher/ai-sanda/