【定着率改善】若手の「やりたい」を形にする団体設立〜城崎温泉YUNOKO〜

観光産業での働き手の確保、特に地方部での働き手の確保が難しくなり、 まずは「今いる人」が活躍し続けられる地域・企業になることが人手不足解消における今後のポイントになると言われています。 この研究では「人が辞めない地域・会社になるための取り組み」をテーマとし、全国の観光地で私がヒアリングした事例を紹介していきます。


「せっかく採用した若者がやめてしまう」ことに真正面から向き合ってみる

兵庫県豊岡市の城崎温泉には、歴史的な街並みと建物の保存の観点から、地域には多くの小規模旅館があります。それもあって「温泉街全体をひとつの旅館として捉える」という独特のまちづくりの思想をもち、
宿泊客がまちを歩き、外湯に入り、飲食店や商店を利用する「まち全体でおもてなしする型」の温泉地として発展してきました。
また街全体で協力するという風土があることから、2023年からは城崎温泉の宿で採用された新入社員の合同入社式を開催。「地域共同の新人育成・定着支援モデル」を作り運営している温泉街でもあります。

そんな城崎温泉ですが、現在約9割の宿が人手不足の問題を抱えています。
採用した新入社員の3年以内離職率は7割を超えていました。地域共同の新人育成・定着支援モデルを立ち上げ、運用をしてはいるも、合同入社式・懇親会・新人研修以降の支援を実施できていない現状もありましたが、「なぜ人が辞めてしまうのか」の理由を正しく把握しようという動きが起こり、離職者ヒアリングと就労者ヒアリングを実施し、問題の洗い出しを行いました。

▲新入社員懇親会のようす


都市圏から就職した若手の想い

城崎温泉は、豊岡市の少子高齢化もあり、関西の都市圏でも力を入れて採用をおこなっています。
関西の外国語大学や、観光学部で学んでいる若者が、インバウンドの旅行者が多い城崎温泉を知り、
「世界に誇れる日本の観光地、城崎をもっと盛り上げたい」という想いを抱き、城崎温泉の旅館に就職をします。
そんな若者たちが、いざ城崎で暮らし、働き始めて感じるGAPがヒアリングの中で聞いた「つらいと感じること」から見えてきました。

【実際働いてみてつらいと感じたこと】
・近所に遊びに行くところがない。都会で就職した友達の暮らしが羨ましい。
・休みがあっても、みんなシフト制で働いているので一緒に遊びにくく、一人で過ごすことが多い。
 自宿で同年代が自分以外いない。
・日々、自分の宿の仕事のみで1日が終わる。
・お客様とのコミュニケーションミスがあったときに、乗り越えるのが難しい時がある。

【つらいことを受け解決すべき課題】
①同年代の友達ができ、重要なことからたわいもないことを共有し相談し合える。
②みんなで定期的に集まる理由、場所がある。
③宿の仕事ではできない「城崎をもっと盛り上げたい」想いを叶えることができる。

上記の課題を解決するべく、今回紹介する事例である城崎温泉若手魅力発掘会(以下:YUNOKO)が発足されました。


目指すのはオーバーワークなく、仲間と楽しく自己実現できるコミュニティ

YUNOKOは城崎温泉の若者の「城崎をもっと盛り上げたい」という想いの実現と、城崎温泉が「若者が育ち、残り続ける観光地」進化できるようにすることを活動目的としている、2026年2月に設立された団体です。
YUNOKOには在籍出向契約という形で、勤務している会社・宿からYUNOKOへ出向するという形でメンバーが所属し、勤務先の仕事とバランスをとりながら、チャレンジできる環境を作っています。
「勤務先から出向できているので、しっかり成果を出さないとという想いが常にメンバーにはあります」と代表の芹沢さん。
会社・宿の経営者の皆様に従業員の工数をいただいているので、しっかり活動できるよう、入会のルールも設定されています。
・会員の紹介でしか入れない。
・入会を希望する場合、勤務先の社長、経営層へ想いと何がしたいかのプレゼンをすること。

このハードルを乗り越えて、YUNOKOでは現在、宿泊施設や飲食店、地域おこし協力隊から11人のメンバーが集まって活動をしています。


YUNOKOの取り組みが生み出しているものとは?

2025年4月から活動を開始したYUNOKO。
夏休みの城崎温泉を盛り上げるゆのまち祭りの企画運営や、2026年新入社員フォローなどを主体的に実施しているほか、他地域での祭りでの出店など、城崎のPR活動も行っています。

活動一つ一つが、街の活性化・魅力づくり・PRに寄与していることはもちろんですが、
どんな取り組みをするかを考えたり、実際に取り組みを企画し、作り上げていく工程そのものが、メンバー同士の交流の場となっています。
月1〜2回夜に定例を開催していますが、定例の場所は会議室だけではなく、メンバーのお気に入りの飲食店へ繰り出すことも。
ご飯を囲み、お酒をのみ、真面目な話もたわいもない話もできる仲間がいて、そこが自分の居場所であると感じられることが、メンバーたちにとって城崎で働き、城崎で暮らす意義となっていると私は考えています。

「人材が定着しない観光地」から「若者が育ち、残り続ける観光地」へという想いで設立されたYUNOKO。
現在は先に述べた城崎温泉を盛り上げる街づくりや、新入社員という「城崎で働く後輩」の支援を中心的に行なっているが、「ゆくゆくは採用や採用面談も城崎温泉街から任せられるようになりたい」と代表の芹沢さんは語っています。

温泉街の宿や飲食店の経営層だけでなく、そこで働くみんなが街を想い・街を守り・活性化する活動に参加し、主体的に動くことで「我が街」になっていく。
これを実現させるための仕組みがまさにYUNOKOであるのだと思います。

▲大盛況のゆのまち祭り


研究員のコメント

まだまだ活動を始めたばかりのYUNOKO。
AIがさまざまな産業に入り込み、人の仕事を代替していく予測のなかで、
今後は都会でオフィスワーカーになるというキャリアの選択が減り、地域で自分らしく働くという選択が増える可能性もあるのではないかと私は考えています。
そうした時に、地域で働きたいと考える人に「どのように地域の一員になってもらうか」が重要になってきます。
地域活性化やまちづくりに関心を持つ若者は、決して少なくありません。
仙台市が実施した若者のまちづくり活動に関する意識調査では、回答者の77.3%がまちづくり活動に関心を持っている一方、そのうち72.7%は活動への参加経験がないと回答しています。
また、上越市の調査でも、20代以下の56.8%が地域活性化のための活動に参加したいと考えている一方、実際の参加率は15.3%にとどまっています。
これらの調査からは、地域に貢献したいという想いがあっても、実際の行動につながっていない若者がいることがうかがえます。

YUNOKOは、まさにそのギャップを埋める取り組みともいえます。若者が抱く「地域をもっと盛り上げたい」という想いを、仲間とともに実現できる場をつくること。それが、地域への愛着や、そこで働き続けたいという気持ちを育む一歩になるのではないでしょうか。

今後もYUNOKOがどう進化していくのか、どういった波及効果があるのか注目していきます。

■YUNOKOについてはこちらから
https://cerulean-hamster-0732b8.netlify.app/


研究員 日野 秀美

宿泊業で働くことの魅力向上をめざし、観光地の人材獲得・定着・育成・評価をテーマにした研究を行う。 2013年リクルート入社。人材採用関連のサービス企画に7年携わり、新卒採用・中途採用・アルバイト採用における商品企画に従事。その後、業務支援サービスの企画へ異動。店舗運営業務を効率化するサービスの企画・開発・マーケティング・カスタマーサクセスに4年従事。2023年より旅行Div地域創造部で、奈良県の観光誘客を支援するエリアプロデュースを行い、2024年からじゃらんリサーチセンター研究員。日本の観光人材のスキルアップを目指した越境学習プロジェクト(観光人材留学)の企画・運営を実証実験として実施。また観光地で働く従業員のスキルアップのための学びの場(天童温泉Next)の設計・運用を行う。現在は「働いて良しの観光産業 」の実現に向けた実証実験や調査を企画。

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