世界が観光地を評価する視点とは? GDS-Indexから考える地域マネジメント

「観光客数、過去最高」。そんなニュースが聞かれる一方で、観光を地域の暮らしや経済にどう生かしていくかを考える場面も増えています。

JRC研究員の松本百加里です。サステナブルツーリズムやインバウンドの調査研究に携わる中で、世界のDMOや観光地が、地域の状況をどのように把握し、次の一手につなげているのかに関心を持ってきました。

その答えを探すヒントとして、2026年6月、バルト海に面したポーランドの港湾都市、シュチェチンで開かれたGDS Forum & Impact Dayに参加しました。観光地のサステナビリティを評価する国際的な仕組み、GDS-Indexの運営団体GDS-Movementが主催する年次フォーラムです。会場には世界各地からDMO、自治体、コンベンションビューロー、観光関係者が集まり、今回は特別に代表のGuy Bigwood氏に直接インタビューする機会もいただきました。

GDS Forum & Impact Day 2026が開催されたポーランド・シュチェチンの会場


会場で語られていたのは、環境問題の専門的な話ではなかった 

正直に言うと、参加する前の私は、サステナビリティの国際フォーラムと聞いて、環境の専門家たちが専門用語を飛び交わせる、少し敷居が高い場所になるのだろうと想像していました。しかし、会場の議論はまったく違う方向を向いていました。そこで語られていたのは、日本の観光地が日々向き合っているのと同じ、地域運営の悩みだったのです。観光地として何を測ればいいのか。誰を巻き込めばいいのか。どんな財源で続けるのか。住民や事業者にどう説明するのか。観光は結局、地域に何をもたらしているのか。環境対策は、こうした「観光地全体の経営」の一部として語られていました。 印象的だったのは、その進め方です。このフォーラムは、登壇者の話を一方的に聞くセミナー形式ではなく、参加者同士で議論するワークショップ形式で進められていました。私も研究員という立場で、世界各地の実務者に交じり、その議論に参加させていただきました。

フォーラムでは、世界各地のDMOや自治体関係者が輪になって議論していた

参加者たちは、評価項目を一つずつ埋めるチェックリストとしてではなく、地域の課題を全体としてつかみ、どこに手を打てば変化が起こるのかを考えるための道具として使っていました。課題、目指す姿、打ち手、関係者、財源、測る指標として、それらを付箋やボードで整理しながら、地域全体の変化につながるアクションを検討していき、同じテーブルを囲んで感じた参加者たちの真剣さは、いまも強く印象に残っています。

ワークショップでは、GDS-Indexの項目を地域課題の構造を考える材料として使っていた

17日午後のグループワークでは、観光税や宿泊税を、単なる財源ではなく、宿泊実態や地域への影響を把握するためのデータ基盤として捉える発表がありました。税収の使途に加え、延べ宿泊数や客室稼働率、民泊など短期貸し出しの分布をどう把握し、地域の判断に生かすか。住民の受け止めも、あわせて把握すべき要素として挙げられていました。

観光客が少ない閑散期の対策も、データで時期を把握し、地域事業者への研修と季節に応じた商品・体験の開発を組み合わせる提案でした。来訪者数だけでなく、事業者の育成や季節ごとの経済効果の分散までを視野に入れていた点が印象に残りました。

食品ロスについては、宿泊施設や飲食店だけで完結させず、会場、地域の受け手、物流を担う組織などとの連携を含め、地域の食の仕組みとして考える視点が示されました。環境対策にとどまらず、地域の支え合いにつながる可能性も含めて語られていました。

開催後には、GDS-Movementの公式ページでもフォーラムの記録が公開され、気候変動、社会変化、インパクト測定、コミュニティとの関係、レガシーづくりなどが主要な論点として整理されています。観光地の評価とは、点数を取ることではなく、「何を測り、誰と改善するのか」を関係者で話し合う場が大切であると感じるシーンが多数ありました。


そもそもGDS-Indexとは ― 地域の現在地を知る評価・改善プログラム

ここで、GDS-Indexとは何かを改めて整理しておきましょう。GDS-Indexは、観光地や都市のサステナビリティへの取り組みを評価し、改善につなげる国際的なプログラムです。参加するのは、DMO、自治体、コンベンションビューロー、観光局などで、評価の領域は「環境」「社会」「サプライヤー(宿泊・飲食・交通など地域の事業者)」「デスティネーション・マネジメント(観光地経営)」の4つに大きく分かれます。自然環境やCO2排出量だけでなく、地域の戦略、住民の参画、誰もが旅しやすい環境づくり、事業者との連携、情報公開、効果測定まで、観光地の運営に必要な幅広い項目が含まれています。

「観光地経営の健康診断」に近いイメージです。なお、日本ではGDS-Indexが、MICE(国際会議や展示会などのビジネスイベント)分野の評価制度として紹介されることもあります。もともと国際会議・イベント産業の分野から発展してきた経緯があり、コンベンションビューローが参加の窓口になることも多いためです。しかし、評価の中身を見れば分かるとおり、対象はMICEにとどまりません。住民との関係、地域事業者との連携、そして観光地経営そのものまで含めて、地域全体のあり方を測る仕組みです。

日本では、冒頭で触れたようにDMOのあり方が問われる中で、地域マネジメントの観点からKGI・KPIをどう設計するかという議論が進んでいます。「観光地として何を物差しにするか」を探している地域にとって、GDS-Indexは有力な手がかりになるはずです。

このサステナブルの分野には、GSTC、EarthCheck、Green Destinations、Biosphereなど、さまざまな国際的な基準や認証制度があります。GDS-Indexの位置づけは少し違いまして、次のように整理すると分かりやすいです。

GDS-Indexは、合格・不合格を判定する認証やラベルというより、地域が自分たちの現在地を把握し、次に何を改善するかを考えるための「評価・改善プログラム」となっています。この違いについてより理解するために、GDS-Movementの代表への取材も行いました。


Guy Bigwood氏に聞いた本来の使い方

フォーラム会場で、GDS-Movement代表のGuy Bigwood氏に直接お話を伺いました。

GDS-Movement代表のGuy Bigwood氏に、GDS-Indexの考え方を伺った

まずGuy氏が語ったのは、世界の観光そのものに対する危機感でした。宿泊数や来訪者数を伸ばせば良い、という従来型の拡大モデルは、地域住民との摩擦、環境の劣化、インフラの疲弊などを生みつつあります。Guy氏によれば、観光地の運営者にとって重要なのは、訪問者に「来てもらう」ことだけではありません。訪問者が「訪れてよかった」と実感できる体験を提供しながら、住民、自然、地域経済がともに豊かになる構造をつくること。GDS-Indexは、その転換を支えるための仕組みだというのです。

そのうえで、インタビューで何より心に残ったのは、Guy氏がGDS-Indexを「地域が改善を続けるための道しるべ」として語っていたことです。

Guy氏によれば、GDS-Indexは順位表でもテストでもなく、地域のサステナビリティを継続的に高めていくための改善プログラムで、いまのレベルに関係なく、すでにできていること、まだ十分ではないこと、これから改善できることを把握するために使うものだといいます。

認証制度との違いを尋ねると、Guy氏は「認証は、されるか・されないかという白か黒かの仕組みになりやすい」と話してくれました。認証には、取り組みを外部に示せるという意義があります。しかし、初めて取り組む地域にとっては、最初から認証取得を目指すこと自体が高いハードルになる場合もある、というのです。

一方、GDS-Indexは、「すべてを一度に完璧にすることを求めません。まず3つの優先課題から始め、次の3つ、さらに5つ、10へと、段階的に改善を積み重ねていけばいい。」Guy氏が示したこの考え方はシンプルで、だからこそ実践的だと感じました。

GDS側では、これから取り組みを始める地域に向けて「GDS-Index Lite」という入門版も用意しています。すでにやっていることを整理し、優先順位を見つけ、より本格的な取り組みへ段階的に進むための仕組みです。「すべてが整ってから評価を受けるのでなく、評価を通じて現在地を知ることからはじめ、整えるべきことを見つけていく。」という発想の転換が興味深いものでした。

またフォーラムでは、GSTCのような国際基準とGDS-Indexを別々の制度として切り離すのではなく、地域の成熟度や目的に応じて組み合わせて使う考え方も議論されていました。GDS-Indexは認証制度ではありませんが、将来的に認証を目指す地域にとって、現在地を確認する準備段階としても活用できます。

フォーラムでは、GSTCなどの国際基準とGDS-Indexをどう接続して活用するかも議論された


都市の将来像と結びつける ― ポーランド2都市の使い方

では、世界の都市は実際にGDS-Indexをどう使っているのでしょうか。参考になるのが、ポーランドのヴロツワフとシュチェチンです。2025年、両都市はGDS-Indexに新たに参加しました。これにより、ポーランドの参加都市は、クラクフ、グダニスクと合わせて4都市になりました。GDS-Movementの発表では、参加の意義として、自分たちの取り組みを国際的な基準と照らして現在地を測り、世界の都市と学び合いながら、変化に強い観光・イベント産業へ進むことが挙げられています。

なかでも注目したいのが、今回のフォーラムの開催地でもあったシュチェチンです。冒頭でも触れたとおり、シュチェチンはバルト海に面した港湾都市で、その規模はポーランドではグダニスクに次ぐ第2位で、機械工業などが盛んで、歴史的に重工業と、バルト海へつながる物流の拠点として発展してきました。しかしその産業の歴史ゆえに、大気や河川の水質汚染にも直面してきた都市でもあります。近年は環境改善への取り組みが進み、都市の姿を変えつつあります。

フォーラム参加者は、シュチェチンのまちを歩きながら地域の歴史や都市づくりについても学んだ

そのシュチェチンが掲げるのが、「Floating Garden 2050」という都市戦略です。かつて汚染と向き合ってきた水と緑を、今度は都市の大きな資源として位置づけ直す。市内では国際的なセーリングイベントも開催されており、2024年1月から9月の宿泊数は前年同期比で9.1%増加したと紹介されています。

つまりシュチェチンにとってGDS-Indexへの参加は、ランキングに名前を載せることが目的ではなく、自分たちが掲げる「水と緑の都市像」を、観光やイベントの分野でどう形にしていくかを測る物差しなのです。GDS-Indexに参加した翌年に、世界中の観光関係者が集まる国際フォーラムを自らの都市で開催したこと自体、その本気度の表れといえるでしょう。

シュチェチンには、もうひとつ興味深い仕組みがあります。市の予算の一部の使い道を、市民の直接投票で決める「市民参加型予算」です。都市全体を対象にした枠と、身近な地域課題の解決を目指す地域枠があり、市民が提案して投票で選ぶ仕組みです。これは観光の制度ではありませんが、「財源の使い道を住民とともに決める」という発想は、日本で導入が広がる宿泊税の使い方を考えるうえで参考になると思います。

フォーラム会場で紹介されていたポーランドの4都市の展示。都市戦略やイベントの取り組みが整理されていた

ヴロツワフの関係者も、持続可能性への取り組みは終わりのない継続的なプロセスであり、常に成長の余地があると述べています。自分たちの取り組みを評価し、改善し、同じ目標を持つ都市のネットワークにつながっていく。GDS-Indexが、地域の戦略を見直し、関係者とともに改善を進めるための「共通言語」として使われている様子が、この2都市からは見えてきます。


日本の地域は何を測るか ― 地域のKPI・KGIを考えるヒント

GDS-Indexの評価項目は、地域の関係者が「何を目標にし、何を測り、どう改善するか」を考えるために、どう検証するかのヒントとして読むことに使えそうです。 全項目をそのまま導入する必要はありませんが、地域の戦略づくりや勉強会、ワークショップの場で、「自分たちの地域は何を測っているのか」「まだ測れていないことは何か」「どの関係者と改善する必要があるのか」を考える材料として使うことはおすすめです。 下の表では、GDS-Indexの4つの領域と、地域で考えられるKGI・KPIの例を整理しました。評価項目の詳細は、GDS-Index公式ページの「Our Methodology」および2026年版のMethodology資料で確認できます。

● GDS-Index公式ページ:https://www.gds.earth/index/
● 2026 GDS-Index Methodology:https://www.gds.earth/wp-content/uploads/2026-GDS-Index-Methodology.pdf

たとえば「住民参画」という項目を見るだけでも、気づくことがあります。地域が測るべきは観光客数だけではなく、住民が観光をどう受け止めているか。住民満足度、観光への受容度、混雑や騒音への不満、観光で得た財源が暮らしに還元されていると感じる割合などは、地域の指標の候補になります。

食品ロスや資源循環も同様です。宿泊施設、飲食店、イベント会場で発生する食品ロス量、余った食品を福祉などに提供した件数、事業者向け研修の参加数、観光イベントでの廃棄物削減率。こうした指標を見れば、環境対策と地域内の経済循環をつなげて考えることができます。

そして、地域事業者との連携。地域のサステナビリティは、行政やDMOだけでは完結しません。宿泊、飲食、交通、会場、観光施設、体験事業者など、観光を支える側をどう巻き込むかが、観光地全体の改善を左右します。


動き出している日本の都市

日本でも、GDS-Indexへの参加は少しずつ広がっています。札幌は2016年から継続的に参加し、環境、社会、事業者連携、地域への影響を整理してきました。 熊本は、地下水や緑、歴史文化など地域の基盤を持続可能なまちづくりと結び付けて発信しており、2025年の評価では世界33位、日本1位となりました。

2026年には北九州市もGDS-Indexに参画しました。北九州は製鉄業を軸に発展する一方で公害を経験し、市民・企業・行政の協働で環境改善を進めてきた都市です。現在は、オーストラリア国立大学のシューメイ・バイ卓越教授らと「持続可能な都市」として新たな都市像「Next Horizon Sustainable City」を掲げ、世界の課題解決に貢献する都市のあり方を発信しています。

シュチェチンも、産業と港湾の歴史を持ち、水と緑を生かす「Floating Garden 2050」を掲げています。両都市の背景や取り組みは異なりますが、都市の将来像を観光・地域マネジメントにどうつなげ、何を指標として確かめていくか。GDS-Indexは、その問いを考える一つの材料になり得ると感じました。

北九州では、DMOや民間事業者が観光と地域マネジメントの推進を担っています。今回のフォーラムにも関係者が参加し、世界の実務者と議論を交わしていました。


おわりに ― 現在地を知ることから始める

会場で私が見たのは、世界の地域がそれぞれの課題に向き合いながら、指標を手がかりに対話を重ねている姿でした。地域、観光事業者、住民など関係者に対して現在地を知って共有することから始めることが、次の一歩を考える出発点になるのではないでしょうか。


松本百加里研究員の担当した研究記事は、下記よりご確認ください。

▪️「サステナブル」を軸にインバウンド旅行者の誘客促進調査
https://jrc.jalan.net/surveys/inbound_sustainable/
▪️インフラが繋ぐ、行政区を超えた持続可能な観光地域づくり ~関門DMO「Green Destinations」世界第3位受賞までの軌跡~
https://jrc.jalan.net/research/7504/
▪️AIエージェント活用による持続可能な観光地域経営モデルの研究
https://jrc.jalan.net/surveys/generative_ai2026/