100年先まで温泉文化を継承させていくために。
「若者」主体の新規プロジェクトが始動
世界に誇る日本固有の文化と言える「温泉文化」。JRCではこの温泉文化を次世代につなぐため、「じゃらんONSEN BATON Project」を昨年新たに始動させました。同プロジェクトのメンバーは現役の大学生たち。若者ならではの視点から、「これからの旅館・温泉文化の在り方」を考え、温泉街や温泉宿を盛り上げるための施策立案から実践、効果検証まで行いました。2026年4月14日(火)には、プロジェクトが始動してから約5ヶ月間の取り組みをご紹介する発表会を開催。今回はその発表会の様子をレポートいたします。
全国4つの温泉地で若者×温泉宿が共創した
「じゃらんONSEN BATON Project」発表会を開催

JRCの新規プロジェクト「じゃらんONSEN BATON Project」は19歳から22歳の若者たちがプロジェクトメンバーとなり、これからの旅館・温泉文化の在り方を温泉宿の皆さんと共に考え、提案していく実践型プログラムです。
まず全24名のメンバーは、当事業の趣旨説明や講義、ワークショップなどを行う2回にわたる導入プログラムに参加。続いて2026年2月に、1組6名のチームに分かれて4軒の温泉宿に滞在する2泊3日の宿泊プログラムへとおもむきました。
宿泊プログラムにご協力いただいたのは、岩手県新鉛温泉「結びの宿 愛隣館」、福島県猪苗代温泉「ホテルリステル猪苗代」、群馬県伊香保温泉「古式ゆかしき名湯之宿 横手館」、福井県あわら温泉「あわら温泉 美松」の4軒です。温泉宿に滞在中、各チームメンバーは温泉街の名所見学や宿スタッフ・地域の方たちとの交流、温泉宿での職業体験などに参加しました。
今回の発表会では、そうした活動の報告と、現地視察を通じた気づきを基にメンバー同士で話し合いを重ねて企画を練った提案施策の説明、そして施策を実施した成果報告が各チームより行われました。
温泉宿泊プログラムを基に、魅力的な施策を提案!
岩手県新鉛温泉では「湯めぐりすごろく」が誕生
トップを飾ったのは、チーム・愛隣館のメンバーです。この日のために学生たちが用意したスライドを投影しながらの発表では、「現地を訪れてみると想像よりも街なかが閑散としていた」との率直な意見も語られました。そして「観光せずに帰ってしまう方がいて寂しい」との地域の方の声に応えるため、彼らは「花巻湯めぐり愛すごろく」を企画したのだそう。
これは花巻をよく知る地域の方々に挙げてもらった立ち寄りスポットをすごろくのマスにすることで、楽しく遊びながら地域の名所を知ってもらい、観光周遊を促すことを狙ったものです。
この提案施策を実現するため、彼らは予定になかった2回目の現地訪問を実施。その際にすごろくを完成させ、愛隣館の宿泊客を対象にプレ体験会も開催しています。プレ体験会では10代から60代まで16組50名ほどの方がすごろくで遊び、
・「すごろくを通じて花巻の魅力を知ることができた」が81%、
・「観光の計画にとても参考になった」が75%、
といったアンケート結果の報告をしてチーム・愛隣館の発表は終了しました。
学生メンバーの発表に続いては、発表会にお越しいただいた協力温泉宿の方、東京都立大学と國學院大學の教授陣、そしてJCRセンター長はじめリクルートのメンバーによる講評です。
チーム・愛隣館に対しては、「温泉街の魅力をわかりやすく、すごろくにしたのはいいアイデア」「地域の人を巻き込んだプロセスが素晴らしい」「地域で活用していきたい」といった意見が出されました。

左/マス目に書くスポット案を出すワークショップに地域の方が参加 右/すごろくは客室に持ち運べるミニ版や印刷用デジタル版も用意
群馬県伊香保温泉、福島県猪苗代温泉の施策は、
若者らしい感性とSNSが活かされたもの
2番目に登壇したチーム・横手館からは、木造建築の「音」に着目したショート動画を通じたSNSプロモーション施策が発表されました。
宿泊プログラムの受け入れ先「横手館」は、国の登録有形文化財に指定された建物が名物です。喧騒を離れた環境のなかに響く、木造の廊下や階段のきしみ、引き戸や障子を開け閉てする音、温泉が湯船に注ぐ水音…。そうした音色こそが、どこか懐かしくて非日常感を高める魅力であると感じた学生メンバーたちは、「音」が美しく映える場面を集めたPR動画を制作。「音を楽しむ宿」として若い世代へ向けてSNSで発信したのです。
このチーム横手館の取り組みに対しては、「音に集中して他を切り捨てるセンスは我々にはないもの」「動画は引き込まれるクオリティの仕上がり」といった声に加え、「温泉街の賑わいと対比してもよいだろう」とのアドバイスも講評として挙がりました。
続いて登壇した3番目のチーム・ホテルリステル猪苗代の提案施策は、「じゃらんシークレットプラン」を活用した宿泊プランです。旅行好き6人の学生メンバーが温泉宿の滞在で見つけた魅力を基に、「傷心旅行」「赤べこまみれ」「アート×旅行」「癒やし」をテーマにした4つの宿泊プランを造成。そして「若者は約8割がSNSリール動画で旅先を選択する」との独自調査をふまえ、リール動画のキャプションに記載したURLからのみ予約可能な「じゃらんシークレットプラン」として販売をスタートさせました。
発表の締めくくりには最も再生数が多かったプランや視聴者の年代構成、今回の結果を受けた次なる構想案も紹介。そんなチーム・ホテルリステル猪苗代には、「地域の実態調査、地域の方々との連携、振り返りまでできていて素晴らしい」「自分たち(ホテルリステル猪苗代)にはない大胆な提案、従業員にも見せたい」との講評がありました。

左/「横手館」の音を伝えるリール動画を制作 右/「ホテルリステル猪苗代」では様々なターゲットに向けた4つのプランを造成した
当初案に課題が浮上した福井県あわら温泉では、
調査、改善などのプロセスを経て実施へ
ラスト4番目はチーム・美松です。2月に滞在した福井県あわら温泉では、街に降り積もる雪が地域の人にとっては「歩きにくい、じゃまなもの」と受け止められていると感じた学生メンバーたち。しかし「観光客にとって雪は特別なものになりうる」と発想を転換し、「長靴」の貸出をフックにした街めぐり促進施策を企画することに。
ただ、この当初案には「貸出場所の導線設計」「アクティビティ性の欠如」といった課題があることに気づきます。そこで100人アンケートを実施し、「宿泊滞在中に暇を持て余すタイミング」「滞在中に参加したいアクティビティ」などを調査。ここで得た情報から、長靴だけではなく草履や下駄も選べるようにしたり、貸し靴の設置棚を工作して温泉街の飲食店ガイドも置いたりと様々な改善策を講じて、貸出スタート日を迎えました。
約2週間の貸出期間中、貸出ブースに興味を引かれて立ち寄る宿泊客は多かったものの、実際に利用した人は残念ながらゼロ。学生メンバーはそんな結果にもくじけず、宿泊客の気持ちをアンケートで探り、発表の最後には「利用法のわかりやすい説明」「設置ブースの強化」といったさらなる改善案を示しています。
講評者の方々からは、「長靴によって雪の外歩きをアクティビティに変えるアイデアは面白い」「打ち手の正解は一つじゃないし、新たな取り組みをする際のPDCAを実践できている」と評価する声も贈られています。

左/温泉街マップや飲食店ガイドの下に履き物を設置した貸出ブース 右/気になる飲食店のガイドカードを選び、表紙とひもで綴じてオリジナル冊子が作れる仕掛けも
100年先へと温泉文化を進化・継承させていく
きざしを感じられた発表会に
こうして進められた発表会を締めくくったのは、リクルート旅行ディビジョンのヴァイスプレジデント・大野雅矢による総評です。どのチームも課題設定から実行、効果検証、磨き上げといった一連の流れが実践できていたことや、若者ならではの新鮮な切り口を高く評価するとともに、日本の財産である旅館・温泉文化を100年先まで進化・継承することが大事であり、それを若い世代にけん引してほしいとの想いが語られました。
学生メンバーの緊張感と熱意に会場が包まれた「ONSEN BATON Project」発表会。いずれのチームの施策提案も観光業界に身を置く者とはひと味違ったキラリと光るアイデアが活かされたものであり、次代を担う彼らが活躍する未来への明るい希望が感じられるものでした。

