小説家

新庄 耕

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苦悩する人々への共感をヒット作へと昇華する表現者

「もがきながらも、地域に根差し、 納得のいくものを作ろうとする。 そういう人が大勢いることが、 日本全体の魅力を増す気がします」

略歴

1983年生まれ、東京都出身。大学卒業後会社員経験を経て、2012年、『狭小邸宅』で第36回すばる文学賞を受賞しデビュー。代表作に『地面師たち』、マルチ商法を題材にした『ニューカルマ』、ドラッグの売人を描いた『サーラレーオ』など。

Netflixによるドラマ化で社会現象を巻き起こした小説『地面師たち』。 その作者が、小説の舞台となった地域や、そこで活動する人に思うこととは。

実際に訪れて得た直感がリアルな作品世界を支える

 実際に起こった巨額詐欺事件を下敷きに、土地の所有者に成りすまして不動産を売り払う詐欺師集団を描いた小説、『地面師たち』。実はその舞台として一定のリアリティを持つ「土地」を決めるのには大いに苦労したという。
「事件をより大きく面白くするために、3桁億円(100億円以上)の土地を狙う設定にしたかったんですけど、都内でもその規模の適当な土地ってなかなかないんです」
 悩み抜いていた頃、新駅「高輪ゲートウェイ」ができるという話題に触れ、見に行ってみようと思い立った。降り立った田町駅近くで目にしたのは、まさにこれから開発が始まる土地が広大な駐車場として広がる様子。そのある種異様な光景と、もともと寺町でもある街の空気から直感的に生まれたのが、「尼僧が所有する高輪の広大な土地」という設定だった。
 同シリーズの2作目に登場する釧路も、実際に訪れて決めた舞台だ。当時、「地球温暖化により氷が解けることで北極海に新たな航路ができる」という話題に触れ、「北極海航路ができれば釧路は日本のシンガポールになる」という言説を確かめに現地に飛んだ。そこで見たのは、シャッターの下りた駅前の商店街とビルの外壁の落書きを背景にカモメが舞う光景。しかし、目の当たりにした景色と「シンガポール」とのギャップに衝撃を受けたからこそ「小説になる」と感じた。さらにそれから何度も訪れるうち、今度は「本当に変わるかもしれない」と思うようにもなった。夏は涼しく、食事が美味しく、周囲に雄大な湿原が広がる釧路のポテンシャルに気づいたのだ。
 決め手は「行ってみて面白いと思うかどうか」。荒唐無稽なようでいて、読んでいると「あるかも」と信じてしまう舞台設定は、新庄氏自身が肌で感じたからこそのリアルな直感に支えられている。

「求められるもの」と「自分が書きたいもの」

 小説を書き始めたのは、大学を出て入った会社を1年で辞め、その後もこれという道を見つけられずにいたときだ。「気が弱くて交渉ごとが苦手。気持ちにムラがあり、数字を積み上げることに興味がなく、集団行動も苦手。ビジネスの世界ではダメだと絶望していました」。そんな中、最後に勝負しようと書いたのが、すばる文学賞を受賞したデビュー作、『狭小邸宅』だった。
 書く動機の根本に「自分の辛さや苦しさを表現したい」という思いはあるが、世の中から求められるものを書くことも嫌いではない。「やっぱり売れると盛り上がるんですよね。地響きがするというか、怒涛のように世間が騒ぎ始める経験をしてしまうと、そこらへんの楽しみは全部薄く感じてしまうような高揚感があるんです」
 それでも、自身が書きたいものとは何かと問われれば、「勧善懲悪とかハッピーエンドとは違う世界」と答える。「見る分にはハッピーエンドも面白いのですが、書くとなるとやっぱり違うものを書きたくなる。自分が日陰を歩いてきたからかもしれませんね」

「もがいている人」がたくさんいる世界がいい

 新庄氏が強く共感するのは「人生をもがいている人」だ。
 もがいている本人は苦しいから、早くその状況から抜け出したいと思うもの。新庄氏自身もそういう経験をしてきたから人一倍理解できる。しかし、今何か書こうとするときに感じるのは、一番大変だったその時期の自分こそが、創作のコアになり、振り返りたい存在にもなっているという事実だ。
「もがく人」への共感の眼差しは、取材で訪れた各地で奮闘する人々にも向けられている。
「北海道の取材で世話になっている方が、廃校を買い取り、醸造所にしてウイスキーを作っているんですけど、材料の麦や水はもちろん、瓶のガラスや樽の木も地元のものだけで作ろうとしていて、そういう姿はやはり刺さるものがあります。長崎の五島で大手メーカー出身の三人組がジンを作っている工場も素敵でした。地域に根差し、納得のいくものを作り、分かってくれる人たちに届けられればいいといった事業はスケールはしないかもしれない。でも、そういう人が大勢いることは尊く、それが日本全体の魅力を増す気がします。」

ドラマ原作の『地面師たち』は英語と韓国語にも翻訳された

続編、海外版も続々刊行の
『地面師たち』シリーズ

Netflixによる2024年のドラマ版『地面師たち』は、日本では6週連続1位、トータルで計18週間TOP10入り、グローバルでも5週連続TOP10入りの大ヒット。原作単行本は2019年集英社より刊行。その原型は、編集者が「地面師が主人公のクライムノベルを書いてほしい」と持ちかけたその場で、わずか1、2時間の間に、新庄氏が持っていたA4のコピー用紙に書き出されたという。2024年7月には釧路が舞台の続編『地面師たち ファイナル・ベッツ』、同年11月には前日譚『地面師たち アノニマス』刊行。いずれもオーディオブック化もされている。

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