親しみやすさと伝える力で 日本ワインの裾野を広げる伝道師
「日常のご飯と合わせて美味しいのは 繊細な味わいの日本ワインだからこそ。 すでにアジアをはじめとする世界が そのことに気づき始めています。」
略歴
1974年福岡県生まれ。関西学院大学卒業後、お笑いコンビ「髭男爵」を結成。2015年日本ソムリエ協会認定「ワインエキスパート」を取得。以来、200軒以上の日本のワイナリーを訪問し、年間1000種類以上のワインの飲み比べを行っている
芸人としての活動が縁でワインを学んだひぐち氏が、日本ワインに魅了されていった理由とは? 土地の個性、人の営み……「初心」がわかるからこそ感じる愛と伝えたい思いを聞いた。
ワインを知ることは土地を知ることだった
「ルネッサ~ンス!」の掛け声とともにグラスを掲げるギャグで知られ、ワインのイベントに呼ばれる機会も多かったが、本来お酒が好きというタイプでもない。そんなひぐち氏がワインを学ぼうと一念発起したのは、あるイベントでの失敗がきっかけだ。
「普段はコメントを求められる立場ではないのですが、大使館の方も来られるような格式高いボジョレーヌーボー(新酒)のイベントで、『今年のボジョレーはどうですか?』と聞かれ、何かそれっぽいことを言わねばと焦って『重いですね』と言ってしまったんです。新酒が重いはずもなく、周りもシーンとしてしまい……これは少し勉強しなければと思いました」
こうしてスクールに通い始めたものの、当初は学ぶ内容の難しさに苦労するばかり。それが変わっていったのは、ワインと土地の結びつきを知った頃からだった。
「ワインは発酵1回でお酒になり、水を使わないから土地の味が出やすい。日本ワイン※だと、同じキノコ系でもトリュフというより舞茸の香りがしたりするんです」
テイスティングでワインの銘柄を当てるのは「土地を当てる」のと同じこと。地理で大学を受験し、学生時代にはインドやエジプトも訪ねたひぐち氏の知的好奇心に、そんな楽しみ方が刺さったのだ。
※国産ブドウのみを原料とし、日本で製造されたワインのこと。輸入ブドウやブドウ以外の果実を使用したものは「国内製造ワイン」と呼ばれる。
初心者には「楽しみ方を教えてもらう」ことも必要

「雨の多い日本のワインは薄いと言われることもあり、僕自身も、ワインバーでブルゴーニュやボルドーのあとに飲むと物足りないと思っていました。でも、日本ワインは繊細な味わいの中に『うまみ』や『だし』感が表現されていて和食に合うと教えられ、普段の食事と一緒に飲んでみたら、本当によく合って美味しかったんです」
味わい方を理解するにはこうして「教えてもらう」経験も必要。自身もゼロからスタートしたからこそ、そんな初心者の気持ちがよくわかる。だから自らが伝える側に回った今、「芸人として親しみを持ってもらえる」ことを強みに、敷居の高さの払拭に努める。ワインの香りの表現としては一般的な「ゼラニウム」や「ボダイジュ」といった言葉は極力使わず、味や香りの特徴も簡潔に。合わせる料理として挙げるのは、スーパーやコンビニで買えるような「お惣菜」だ。
「高価なワインにはもちろんそれにふさわしい味わい方があります。ですが入門レベルのワインなら千円、二千円台程度なのでぜひ気軽に飲んでみてほしい。さらに日本ワインであれば、それを日常のご飯と一緒に楽しめるわけですから」
気軽なワインなら、日本の暑い夏に氷を入れたり炭酸で割ったりしてもいい。「甲州」の柑橘系の香りはカボスのニュアンスがあるからサンマの塩焼きに、長野の「メルロー」は不思議と根菜料理に合う。山形のシャルドネにはラフランスの、和歌山のリースリングにはなぜか温州みかんのニュアンスがあって……ひぐち氏が教えてくれる日本ワインの話は、地域の表情を豊かに伝えてくれて楽しい。
まず地元の人が知ることで「ペアリング」が広がっていく
自らがワイン大使を務める北海道余市町では、日本ワインが地域で起こす変化の大きさ、早さに驚かされている。地域の醸造所やブドウ園を巡る年に一度の農園開放祭「ラフェト・デ・ヴィニュロン・ア・ヨイチ」は今、1500人もの人を受け入れるが、それでも抽選が必要なほどの人気だ。
「ワインはそれ単体だけでなく、農家さんも盛り上げることができます。さらに料理とペアリングできるから、周辺の農産物とか畜産物とか海産物も全部繋げることができ、人が集まってくる理由になる。余市のイベントでは、タイからわざわざ訪れたという人とも出会いました。海外、とくにアジアからも注目されています」
その魅力について「日本全国そうなのですが、最も知らないのは地元の人」とひぐち氏。そして「まず地元の人が知ることが、繋がりを作り、地域に活気をもたらすと思うんです」と呼びかける。
「テロワール(土地の個性)」の産物であるワインは「ほかにはない地域の魅力」の一つの形。それがより多くの地域で味わえるようになることはひぐち氏の夢でもある。
ワイン会のほか、収穫ツアーなど日本各地の産地を訪れる企画も。写真上は北海道余市町「木村農園」でのピノ・ノワール収穫ツアーの模様
オンラインサロンで
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「ひぐち君の日本ワイン会( https://lounge.dmm.com/detail/1486/)」では、醸造家やワイン関係者が参加するオンラインワイン会を毎月開催。メンバーは、日本ワイン初心者からソムリエまでと幅広い。「日本のピノ・ノワールの飲み比べ」などテーマを絞ったリアルワイン会も不定期で開催。サロン内ではひぐち氏が過去に取材したワイナリーやワイン情報も閲覧できる。1カ月間のお試し入会も歓迎だ。
