デザイナー/絵本作家

山下浩平

とーりまかし研究冊子の記事はこちらから

70年の万博と絵を描くことへの憧れを 「ミャクミャク」へと繋げた創作者

強烈なインパクトとともに登場し、今や大人気の大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」。 キャラクターデザインの「生みの親」が語る、愛されるキャラクター、創作への思いとは。

略歴

1971年熊本県生まれ兵庫県育ち。グラフィックやプロダクツ、キャラクターなどのデザイン制作、絵本や紙芝居などの創作を手掛ける。代表作に「ファーブル先生の昆虫教室」シリーズほか。絵と工作のワークショップ活動も行っている

「魂を込めた仕事には、 必ず振り向いてくれる人がいる。 諦めることなく追ってきた夢を 認めてもらえた気持ちでいます。」

個性的なロゴマークを活かしつつ、和らげる

デザイナーとして長年活動し、キャラクターもいくつも手掛けてきたが、公募への応募は初めてだ。
「70年の万博後の関西で子ども時代を過ごしたので、太陽の塔も好きだし、骨董市などで見かける万博グッズのデザインも好きで集めていたりして、万博には憧れの気持ちがありました。さらに2020年に今回の大阪・関西万博のロゴマークが決まったとき『このデザインが選ばれるってすごい』と思ったことが、絶対に応募するという決意に繋がりました」
アイデアを磨き上げるには「まずたくさん描く」、そして「後から自分でディレクションする」のが山下氏のスタイル。公募が発表されてからの1カ月間は、他の仕事の合間を縫って無心にスケッチを繰り返した。決めていたのは、自らも強いインパクトを受けたロゴマークを活かすこと。一方でその強さを和らげ、抱きしめたくなるような可愛さを加えることがキャラクターの役割だとも考えた。ぽっこりとしたおなかやおしり、くるくる動いて見える瞳、ロゴマークを両手で掲げて「みてみて!」と言ってるかのようなポーズ……生き生きとした愛らしさは、絵本作家でもある山下氏の、作中の子どもたちの姿にも通じる。さらには万博のメッセージとしての多様性を表現する「姿を変えられる」という設定、着ぐるみとしての造形のしやすさ、動くと跳ねて目を引くしっぽなど、ディテールの作り込みにはデザインのプロとしての知識や経験も詰め込んだ。
そんな「プロの目線」の一方で「元となったロゴマークも名称も別々の公募で生まれたミャクミャクは、みんなで作ったキャラクターであり、それこそがよかった」とも思っている。「独特なロゴマークも、『ミャクミャク』という名前も、自分では決して思いつかなかったもので素晴らしい。約2年という時間をかけて少しずつ出来上がっていったことも、開催地・大阪の人が『自分たちのもの』という愛着を育てることに繋がったのではないでしょうか」

“自分の作品を、思い思いに楽しんでもらえるのが嬉しい”

さまざまな反響を呼んだミャクミャクだが、今や大人気キャラクターとして注目度は急上昇。飛行機の機体に描かれたり、切手になったりという状況に、「自分の絵がここまで広がる経験は初めてで不思議な感覚。万博だからこそ実現できたことですね」とその意味を噛みしめる。
最も嬉しかったのは、開幕直前のテストランの日、訪れた来客の中に、フェルトで手作りしたらしいミャクミャクのワッペンをつけた高齢女性の姿を見つけたことだ。
「今のようなSNSの時代には、みんなが好きなミャクミャクを発信したらいいとも思うんです。『変化する』というコンセプトも、そこを意識したものでした。だから、手づくりのミャクミャクは嬉しかったですね。よく見ると目の数が合ってなかったりするんですけど(笑)、それも最高でした」
コロナ禍では若者が貴重な時間を奪われたというけれど、それは高齢者も同じこと。「いわゆる『推し活』ではないけれど、そういう人たちが、思い思いに『好き』を楽しんでいる姿はとてもいい」と山下氏はやさしい眼差しで語る。その「好き」が自分の生み出したキャラクターであればなおさらだ。

“諦めずに続けてきたことで素晴らしい経験ができた”

キャラクターを考えるとき、「流行らせよう」という考えはない。純粋に、自分が面白い、可愛いと思うことを大切に表現する。それでも「魂を込めた仕事には、必ず振り向いてくれる人がいる」ということを、長くデザインの仕事を続ける中で実感し、信じている。
「子どもの頃、転校が多くてなかなか友達ができない中、絵だけが自分の友達だった。だから、絵を描くことで生きていこうと決めている」という山下氏。その思いのまま歩み続け、40代になってから長年作りたかった絵本にも挑戦した。
夢を追い続けるのは難しい。「どうすれは折れずに続けられますか?」と聞くと山下氏は、「いっぱい折れてますよ!」と笑った。
「それでも諦めずやるべきことを続けていると、こんな面白い経験もさせてもらえる。端っこでやっていた自分の夢を認めてもらえた気持ちですね」

絵本の制作には年単位の時間をかけ、まさに「魂を込めて」取り組む。絵本のために描かれた大量のスケッチの中に、ミャクミャクの原型ともいえる姿があった

リアルな恐竜の魅力が息づく山下氏の最新刊絵本

山下氏の最新刊、「きょうりゅうゆうえんちダイノ・ロボでサファリたんけん」(ポプラ社/1,870円[税込])は、恐竜が大好きな少年が「きゅうりゅうゆうえんち」への招待状を受け取るところから始まる物語。絵本には実際に招待状が付属していて、読む子どもたちの夢を広げる仕掛けとなっている。昆虫など生き物が大好きで、野山での採集や観察にもよく出かけるという山下氏ならではの、生き物への愛にあふれた作品だ。

前のぺージへ

幅允孝

次のぺージへ

銅冶勇人
バックナンバーへもどる