「これなら作りたい」を見つけ出し 生活の中の料理として発信する
「有名シェフの」などの枕詞は何もない。それでも多くの人に愛されるレシピとは何か? フォロワー40万人の人気料理家の話には、ニーズの掴み方やファンづくりの秘密が詰まっていた。
略歴
1996年埼玉県生まれ。小学6年生で始めたタレント活動を20歳で引退し、大学に進学して管理栄養士の資格を取得。2020年頃から始めた投稿をきっかけに、2022年から本格的に料理家としての活動を始める
「いいレシピはたくさんあっても 普通の人には手の届かない場所にある。 便利なはずの世の中で困っている人が 実はたくさんいたのです」
「ちょうどいい」を求める自分のワガママが原点
Xアカウントで紹介されるレシピは、基本的に1ポストで収まる簡単なもの。それなのにちゃんと作った感じがして栄養もある長谷川氏の「限界丁寧ごはん」は、多忙なアラサー女性を中心に絶大な人気を誇り、今やフォロワー数は40万人を超える。
発想の原点は「ワガママ」だ。
「お洋服でも、かわいいけど値段が高くて買えなかったり、安いけど色や質感がちょっと…と言っていると最後は自分で作るしかないということになりますよね。私は料理やレシピ本が大好きなので、そういう『もうちょっとこうだったらいいのに』を料理に対して思ってしまうんです」
簡単、美味しそう、作りたいと思える…長谷川氏自身はレシピを探すこと自体が好きだから、そんな「ちょうどいいレシピ」がどこにあるかを知っている。しかし、SNSを見て気付いたのは、多くの人はそうではないということだ。
「ネットには情報が多すぎて、素材名で検索すると上位は一部の人気レシピで埋まってしまうんです。本当は世の中にはたくさんのレシピがあるのに、相当手をかけないとたどり着けないんですね」
求めるのは時短だけではないが、料理にばかり時間をかけられるわけでもない。趣味で料理を作っていたときは楽しかったのに、生活の一部になると楽しめない。そんな人が「作ってみたい」と思える「全部の中間みたいな」レシピを、届きやすい形で。「そう思って発信してみたら、自分と同じ『ワガママな人』がたくさんいたんです」
届けることが目的なら「自分」を前面に出せ

「好きな服とか居場所が似ている人は好きな味も似ているんじゃないかと思うんですよね。『この人、こういうものを選ぶんだ。分かる』と思える人のレシピのほうが親和性が高いはずだから、そう思ってくれる人に届けたいんです」
レシピを一つのレシピとしてだけ見ていれば、作れば終わりで次はまたゼロから探すことになる。でも、本当は一度作ったレシピを自分のものにできるほうがいいし、そのためには「共感できる誰か」の料理を作るほうがいい。長谷川氏自身が経験してきたからこそ思うことだ。
長谷川氏のレシピは必ずしも手軽なばかりではない。かけなくてよい手間はできるだけ省くけれど、手間と味を天秤にかけ、手間を上回る味が得られると思えば省かない。その基準はあくまで自分の感覚だから、「こうするべき」と言う気は全くない。しかし、共感でつながったフォロワーならば、長谷川氏が「お願い、信じて!」と思いながら投稿するそのポイントにも共感してくれるのだ。
アウトプットの秘訣はまず文字で書き出すこと
数多くのレシピを世に送り出す秘訣は、「思いついたレシピを、とにかく一度書いて溜めておく」ことだ。「それから一カ月ほど寝かせておいて、改めて見てみたとき、『作ってみたいかも』と思えたら採用するんです」確かに、こんなふうにアウトプットを「量産」ではなく「蓄積」と考えれば、取り組むハードルは下がる。
さらに、レシピ完成直前まで敢えて試作はしない。
「先に試作をすると、食材を無駄にしたくなくて守りに入っちゃうんですよね。文字なら、やりたい放題組み合わせて『俺の考えた最強の料理』みたいな妄想ができるし(笑)、ダメだと思ったら消せばいいだけですから」そんな大胆で自由な発想が、ユニークなレシピを生み出す源だ。
「料理家としてこんなことを言うと叱られてしまうかもしれないんですが、私にとっては必ずしも『美味しい』が最優先ではないんです。今が世の中には美味しいものがたくさんあるのが当たり前で、だから自分の料理が最高に美味しくなくても、楽しく作れたらいい。もっと言えば最悪作らなくても、レシピの写真を見て『こういうの食べてみたいかも』と思えるだけでもいい。忙しくて疲れて自分が何を欲しているかもわからなくなる中で、そう思うことがちょっとしたセラピーになってくれれば十分嬉しいとも思うのです」
2024年12月に発売された『長谷川あかり DAILY RECIPE Vol.2』(扶桑社ムック/1650円)。冬季の出版に合わせて少し「ごちそう」要素も加えたレシピは読んでいるだけでも楽しい
意外な層に広がりを見せる「生活の中の料理」
「料理の腕を自慢できる」でも「SNSで映える」でもない「生活の中の料理」であることは長谷川氏のレシピの大きな特徴。当初は「働くアラサー女性が少しラクをして作れる」というイメージで投稿を始めたが、今は「ワンランク上の料理を作りたい学生」や「共働きの男性」など、想定していなかった層まで支持が広がっている。Xでは数日の一度のペースでレシピを投稿し続けているが、レシピ本も続々出版している。
