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山梨県富士吉田市
キャッシュレス化×着地型観光商品造成の合わせ技で
インバウンドに「選ばれる」観光地へ進化
インバウンド需要が増加するにつれて
重要性が高まる街のキャッシュレス化
東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年に4000万人の来訪を目標とする、訪日外国人旅行者数は想定以上に好調に増加。いまや地域経済活性化において外国人旅行者の消費は重要な役割を担っていると言えよう。富士山のお膝元に位置する山梨県富士吉田市にも「新倉山浅間公園 忠霊塔」からの富士山の眺めが話題に なったことを契機に外国人旅行者が急増。年間約40万人の忠霊塔来訪者の7割程度は外国人旅行者という状況だ。しかし市内周遊が十分にはなされておらず、より長く滞在してもらい消費拡大に結び付けることが課題だった。
また、国内ではここ数年の間にキャッシュレス決済が急速に進行。とはいえその比率は現状2割ほど。2018年の年間訪日旅行者数の国別シェア1位は中国、2位は韓国だったが(日本政府観光局(JNTO)調べ)、中国のキャッシュレス決済比率は6割超、韓国では9割超とも言われている。彼らが慣れ親しんだキャッシュレス決済に対応することは、この先インバウンド需要を取り込むために不可欠。訪日外国人旅行者の満足度を高め、リピーターから「選ばれる」地域になるためにも重要だ。 2017年に閣議決定された「未来投資戦略2017」では2027年までに国内のキャッシュレス決済比率を4割程度とする目標値も掲げられており、国を挙げてキャッシュレス化への機運が高まっている状況でもある。
市内消費機会を創出する商品造成と
キャッシュレス化の相乗効果で観光消費拡大へ
こうした背景を受けて、富士吉田市では市内事業者のキャッシュレス化推進に向けて始動した。キャッシュレス化が進まない理由の一つに、「導入コストがかかるから」というものがあるが、本事業では決済用端末と通信費を市側が負担。市内事業者はこのシステムを導入することで、各種クレジットカードや電子マネー、さらに中国をはじめ全世界ユーザー数が9億人を突破した「ALIPAY」、国内登録ユーザー数が3000万人を超す「LINE PAY」といったQRコードを利用したモバイル決済サービスの受け入れ対応が可能になる。
さらに、キャッシュレス化推進と同時進行で、着地型観光商品の造成にも着手した。地域事業者に協力を仰ぎ、市内に埋もれている観光資源をいま一度掘り起こして商品化を進めていった。市内消費の新たな機会を生み出す役割を担う観光商品の造成と、キャッシュレス化という両輪の相乗効果によって、地域の魅力向上と観光消費拡大を一気に加速する狙いである。
3カ月間で100カ所のキャッシュレス化を実現。
外国人旅行者からの集金漏れ回避という効果も
富士吉田市全域を「キャッシュレス化推進地域」として強く印象付けるためにもスピーディーな事業の展開にこだわった結果、3ヵ月間で103の地域事業者に対するキャッシュレス決済用端末の導入が実現。そのうち30の事業者は着地型観光商品の造成にも参画しており、合計で100企画の造成につながった。完成した商品は国内最大級の着地型観光商品販売サイトである、じゃらんnet「遊び・体験予約」にて販売している。
キャッシュレス化には富士山の山梨県側登山ルートにおける富士山保全協力金(入山料)の徴収窓口である、富士山五合目に位置する施設も参画。これにより現金の持ち合わせがない外国人旅行者からも入山料徴収が可能に。また、体調悪化や傷病の観光客が多く搬送される富士吉田市立病院では外国人旅行者の診療費未払いが問題となっていたが、今回キャッシュレス化したことにより問題解消に多大な効果が表れている。