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観光振興セミナー2025 地域Meeting|全国8エリアの講演レポート
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本ページでは、2025年7月~9月にかけて全国8地域で開催した
「観光振興セミナー2025 地域Meeting ~地域でつくる、地域のミライ~」の
詳細レポートをお届けします。
アーカイブ配信は行っていないため、
より詳しい講演内容をこちらでご覧いただけるようにしました。
ぜひ最後までお読みください。
観光振興セミナー概要はこちら▶ https://jrc.jalan.net/seminar/5905/
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1:未来のこの街をもっと好きになる、「観光から考える地域戦略」
/じゃらんリサーチセンター長・沢登 次彦
講演のトップを務めたのはJRCセンター長・沢登です。
2040年の未来予測を基に、これからの地域観光が直面する課題と
戦略についてお話しさせていただきました。
各種調査から浮かび上がる「2040年の社会」は現在の延長線上にはなく、
①約1.1億人に日本の人口は減少し、65歳以上が35%を占める「超高齢化社会」に
②平均気温の上昇は避けられず、観光資源の変質や消滅リスクへの対応が急務
③AIを当たり前に使うAIネイティブ世代が社会人になる時代の到来
という3つの大きな変化が訪れると沢登センター長は指摘。
そのため、シニア観光人材の活用や、旅行者と共に環境保全を考える機会の提供、
AI導入による生産性向上に、観光業界として対応していくことが求められる
と提言しました。
具体的な未来への取り組みとして、深刻化する人材不足に対応する2つの事例も紹介。
事例1としては、シニア世代の経験や人間性を観光の価値に変える
「シニア観光人材の活用」の取り組みをピックアップ。
岩手県野田村の古民家宿や長崎県五島列島のホテル(*1)の事例では、
旅行者、働く仲間や雇用主、働き手のシニアそれぞれにメリットが生まれています。
(*1:【JRC-TV】人気リゾートホテルがシニアを積極採用する理由
観光業を支えるシニア人材に密着!https://jrc.jalan.net/research/6514/)
事例2は、地域を一つの企業と捉え、町内で働く全従業員が利用可能な
福利厚生サービス(コミュニティポータル)を立ち上げた栃木県那須町の取り組み。
「地域全体での福利厚生」の仕組み化により、
人材定着率向上と地域への愛着醸成を図っています。
また、旅行者の価値観の変化に応じた新たな観光需要創造のカギとして、
カスタマーとの深い関係を創る「帰る旅(*2)」プロジェクトを例に挙げ、
地域と深く継続的な関係を築くロイヤルカスタマーとしての「愛着人口」を
育む取り組みは、将来的には関係人口の増加や移住に結び付き、
持続可能な地域づくりに繋がることを示して講演を締めくくりました。
(*2:「帰る旅」がもたらす新たな旅の形とは https://jrc.jalan.net/research/4821/)
2:日本人の最新国内旅行トレンドは?「じゃらん観光国内宿泊旅行調査2025」
/JRC主席研究員・森戸 香奈子
森戸主席研究員は、毎年恒例「じゃらん観光国内宿泊旅行調査」の
最新版調査データに基づき、国内旅行のトレンドについて解説しました。
2024年度(2024年4月~2025年3月)の国内宿泊旅行の概況を見てみると、
実施率は49.3%で、前年度とほぼ同水準。
市場全体(人数ベース)としてはやや縮小傾向にあり、
旅行しなかった理由の1位は「何となく(26.6%)」。
延べ宿泊旅行者数は18~29歳のシェアが最も高く、21.5%を占めています。
旅行の同行者は「夫婦2人(25.6%)」が最多ながら、「ひとり旅」が増加傾向にあり、
特に男性の多くの年代では4件に1件がひとり旅となっています。
宿泊形態は「1泊(57.7%)」かつ「1泊2食付き(41.4%)」プランを選ぶのが
スタンダードですが、「素泊まり(27.1%)」も上昇傾向にあります。
旅行の人気の目的地(都道府県別延べ宿泊旅行者数)は1位「東京都」、2位「北海道」で、
前年度より延べ宿泊旅行者数の増加率が高かったのは1位「茨城県(14.2%)」、
2位「岡山県(10%)」と、地方分散化のきざしもあるようです。
旅行費用の総額は6万4100円で、前年度から3500円上昇。
こうした費用増が影響してか、旅行しなかった理由3位は
「家計の制約(22%)」となり、前年度より割合が増加しています。
また、40代以下、特に男性を中心に
ローカルな交流を望む「体験・交流志向」の高まりが見られました。
訪問地ごとの旅行総合満足度は全国的に低下しており、特に若年層の男性で顕著。
物価高を上回るほどの旅行費用総額の増加が、満足度低下の一因とも考えられると
森戸主席研究員は分析しています。
こうした調査結果をふまえ、これから注力すべきこととして、
①満足度の低下を防ぐためサービスの質の維持
②混雑による風評被害対策と、混雑緩和や分散促進に向けたオーバーツーリズム対策
③ローカル志向の高い層に応える地域のオリジナリティによる魅力化
④旅行離れを防ぐ低価格帯層への旅行支援で市場拡大
という4つのポイントが提示されました。
この他、「地元ならではのおいしい食べ物があった」「ホスピタリティを感じた」
といったテーマ別ランキングの調査結果から、講演会場となった地域ごとの
傾向も紹介する、盛りだくさんの講演となりました。
▼じゃらん観光国内宿泊旅行調査2025の結果はこちら
https://jrc.jalan.net/surveys/accommodation_travel/
3:最新の主要周遊ルートの傾向と変化は?
「地図で読み解くインバウンド地方分散研究2025」/JRC研究員・松本 百加里
松本研究員による講演は、インバウンド市場における主要な周遊ルートの分析と、
地方分散のヒントがテーマです。
2024年のインバウンド市場動向によると、国の目標に対して
消費総額や訪日外客数は達成しているものの、地方部の宿泊者数は未達であり、
地方分散が一層重要な局面にあります。
地方分散を推し進めるには、台湾やアメリカといった市場(地域)別の
周遊ルートの理解が不可欠。そこでまずは現状を知るため、2024年の調査データから
講演会場に応じた地域内の主要周遊ルートと前年からの変化、
地域ごとにニーズが高いコンテンツや旅行者属性などの傾向を紹介していきました。
地方分散のヒントとして、人気のテーマ内でエリアシフトを図る
「テーマ軸スイッチ型」、強い独自特性で誘客を狙う「特定目的型」、
+アルファの目的地として補完的役割を果たす「周遊補完型」、
移動途中の気軽な立ち寄り先となる「経路寄り道型」の4つのパターンを提示。
なかでも有効なのは、スキーや温泉などの人気テーマにおいて、
混雑回避やコストパフォーマンスといった付加価値を組み合わせ、
既存ルートからの転換を促す「テーマ軸スイッチ型」だと松本研究員は述べています。
先行事例を挙げ、その具体的手法を分析しながら、二次交通の整備や
ターゲットを絞った情報発信の重要性を示しました。
講演の最後には、自地域が周遊ルートに選ばれるために求められることを整理。
まずは「全国の周遊ルートを把握」し、
「自地域が代替案として選ばれるための差別化ポイントを検討」すること、
そして「差別化情報と移動手段を含めた情報をデジタルで整備し、
旅行者に知ってもらう工夫をする」。
加えて、対インバウンドに限定せず、国内旅行者の受け入れ整備と同時に行うことが、
持続可能な状況を生み出すうえで重要であると述べられました。
▼地図で読み解くインバウンド地方分散研究の詳細はこちら
https://jrc.jalan.net/research/4962/
▼インバウンド都道府県ポジショニング調査2025の調査報告書はこちら
https://jrc.jalan.net/surveys/inbound-positioning/
4:地域戦略推進のためのQ&Aセッション
参加者から事前に寄せられたテーマについて、先に登壇した3名に
地域創造部部長・高橋 佑司を加えた4名でディスカッション。
テーマは①気候変動・環境保全、②人材不足・人材育成、③生成AIなど観光DX、
④宿泊税・観光財源、⑤地域・住民との連携、の5つです。
▲ディスカッションの様子
各テーマに応じた事例を紹介しながら、観光に携わる地域や事業者ができること、
課題解決に臨む際の姿勢について話し合われました。
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独自調査の分析や、具体的な地域の取り組み、未来に向けた提言など、
観光に携わる皆さまにお伝えしたい内容をギュッと詰め込んだ
「観光振興セミナー2025 地域Meeting」。
参加者の皆さまからは「参考になった」などの嬉しい反響も届いています。
そうした参加者の声の一部を、最後にご紹介いたしましょう。
「詳細な対策をご教示いただき、今後の観光業界が取るべき道筋を理解できた」
(観光から考える地域戦略)
「当地域の立ち位置が明確に理解できるよい情報をありがとうございました」
(じゃらん観光国内宿泊旅行調査2025)
「地域(国)ごと来訪客の行動パターンが可視化できて、
大変にわかりやすかったです」(地図で読み解くインバウンド地方分散研究2025)
「具体的で示唆に富んでいるディスカッションを展開され、
聞き応えがありました」(地域戦略推進のためのQ&Aセッション)
「観光振興セミナー2025 地域Meeting」では、
地域と観光の未来を考えるための多彩なプログラムが展開されました。
本レポートが、皆さまの今後の地域づくりや観光戦略の一助となれば幸いです。