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【リリース】ご当地調査2025~「愛着」「誇り」「行動」で読み解く、地域を“好き”になるプロセス

じゃらんリサーチセンターは、「ご当地調査2025」を実施しました。

観光を取り巻く環境が大きく変化するなか、
持続可能な観光地経営のためには「外からの誘客」だけでなく、
「住民の地域への想い」がますます重要になっています。

いわゆる消費型の観光から、地域の誇りや人のつながりを軸にした観光へ──。
こうした流れの中で、地域に住む人々がどのように“地元を好きになり”、
“誇りを持ち”、“行動に移しているか”を改めて可視化することが、
地域づくりの新たな指針になると考え、本調査を実施しました。

▼調査報告書の全文はこちら
https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2025/10/report_gotochi2025.pdf


調査概要
• 調査目的:地域への「愛着」「誇り」「行動」という感情・行動の構造を定量的に捉え、
       それが観光推奨や受容にどうつながるのかを明らかにする。
• 回収数 :11,631人(全国20~69歳男女)
• 調査期間:2025年5月16日(金)~6月4日(水)

分析の視点
① 47都道府県別に「ご当地県在住者」のご当地県に対する意識を比較
  ※ご当地県:回答者が18歳までに最も長く居住した都道府県
  ※「ご当地県在住者」とは「ご当地県定着者」+「ご当地県Uターン」

② 3つの視点から見る「ご当地愛」の構造
本調査では、地域への想いを「愛着」「誇り」「行動」という3つの視点から捉えています。

愛着 … 地域との心のつながり(好き・親しみ)
誇り … 地域に対する前向きな評価(誇れる・自信を持てる)
行動 … 地域への関与(参加したい・関わりたい)

この3つは独立しているわけではなく、互いに影響し合う関係にあります。
「愛着」が生まれることで「誇り」が育ち、「誇り」が「行動」を後押しする
──そんな好循環の構造を想定し、分析を設計しました。

特に今年は、「誇り」と「愛着」の連動性に注目。
地域を誇りに思える人が多いほど、
他者に薦めたい気持ち(旅行推奨)が高い傾向が確認されました。
これら3つの指標を通じて、地域への感情や
行動のつながりを可視化することを狙いとしています。

<ご当地調査2025の主要トピックス>
都道府県別にみる「愛着」「誇り」「行動」の特徴と傾向(ご当地県在住者)
●【愛着】西日本エリアを中心に愛着度が高い傾向。
 特に沖縄・北海道は50%を超えており、愛着源泉を見てみると
 自然環境や風土文化が「地元らしさ」を支えていることがわかる。
●【誇り】歴史・文化遺産を有する県や、外部からの評価が高い県で
 スコアが高い傾向が見られた。
 「観光地として認知されている=誇りやすい」構造がうかがえる。
●【行動】地域活動への関与意識を高める要素を見てみると、
 地域イベント・食文化・人とのつながり機会が多く、
 自分や地域の一員だという実感が行動意識を後押ししていることがわかった。

図1:ご当地県在住者の「愛着」「誇り」「行動」の都道府県ランキングTOP10



「愛着」「誇り」「行動」を高める要素を探る
地域への想いは、単一の出来事や短期的な経験で形成されるものではなく、
日々の暮らしや人との関わり、過去の体験など、
さまざまな感情が重なり合って形づくられるものです。
ご当地への愛着や誇り、行動をより多面的に捉えることを目的に、
ご当地県への「愛着」「誇り」「行動」の高・中・低に区分し(*1)、
以下の5つの観点から回答項目を設計し、それぞれの指標に影響する要素や
パターンを整理しました(図2)。
(*1:それぞれの設問に対して、高:TOP1、中:TOP2、低:その他の回答者で区分)
I. 「ご当地県のイメージ」
II. 「暮らして良かったと感じた時」
III. 「もっと関わってみたい・良くしていきたいと思った時」
IV. 「ここ1~2年で経験したこと」
V. 「ご当地県での18歳までの過ごし方」


「愛着」「誇り」「行動」をそれぞれ高める特徴的な要素を整理
<愛着を高める要素>
●愛着を高めるのは、「親しみ」「住みやすさ」「安心感」。
●日常生活の中で地元の良さを実感することが中心にある。
●小中学校での思い出や、友人・家族との関係が“心のつながり”を育てる基盤に。

<誇りを高める要素>
●誇りを高めるきっかけは、「他者から地元を評価されること」や
「地元の良さを再認識する場面」。
●地元のイベントへの参加や、地域で活躍する人を知ることが誇りにつながる。
●子どもの頃に「誇りを持つ大人と接した経験」も重要な要素。

<行動を高める要素>
●“地域に期待が持てる”ことや、“地域に活気を感じられる”ことが
行動の原動力になっている。
●行動を高めるのは、「自分のスキルや活動が地域に役立っていると感じること」。
特に県外からの移住者(Iターン)で高い傾向がある。
●「地域イベントや清掃活動への参加」「地元企業との関わり」など、
実感を伴う関与が行動意欲を後押し。

「愛着」は暮らしの中で生まれ、「誇り」は他者評価や地域活動を通じて育ち、
「行動」はその二つを押し上げるブースターとして機能していることが示唆されました。

図2:ご当地県在住者の「愛着」「誇り」「行動」を高める要素



3つの指標「愛着」「誇り」「行動」と「旅行推奨」「旅行受容」の関係性

●ご当地県への旅行推奨(来てほしい)をみると、
「愛着」「誇り」「行動」が高い人が、「ぜひ来てほしいと思う」と回答する割合が高い。
特に、「誇り:高」「行動:高」は「ぜひ来てほしいと思う」が6割超(図3)。

図3:ご当地県への旅行推奨_「ご当地県に宿泊旅行に来てほしい」


※それぞれの設問に対して、高:TOP1、中:TOP2、低:その他の回答者で区分

●ご当地県への旅行受容(歓迎したい)をみると、「愛着」「誇り」「行動」が高い人が、
「地域に観光客が増えるのはうれしい」と回答する割合が高い。
特に「行動:高」は「とてもそう思う」が7割以上と非常高い(図4)。

図4:ご当地県への旅行受容_「地域に観光客が増えるのはうれしい」



3指標の関係性分析 ― 観光推奨・受容を動かす要素とは
3指標のどれが「旅行推奨」「旅行受容」に最も強く影響しているかを見るため、
次に、47都道府県のスコアを用いて相関分析を行い、
各指標と観光推奨・受容との“関係の強さ”を検証しました(*2)。

その結果、「愛着」と「誇り」はいずれも相関係数0.70(*3)と強い関係を示し、
観光推奨の主なドライバーとなっていることがわかりました。
「自分のまちが好き」「誇りに思う」と感じる人が多い地域ほど、
「ぜひ来てほしい」と他者に薦める傾向が高い結果です。
一方で、「行動」は相関係数0.43とやや緩やか。
直接的に旅行推奨や受容を高める要素というよりは、
愛着や誇りを押し上げる“ブースター”として機能していることが確認されました。
*2: 3指標(愛着・誇り・行動)について、
それぞれ特徴的な傾向を示した調査項目を抽出・点数化し、
旅行推奨や旅行受容との相関関係を分析。
*3:相関係数:2つの項目の関連の強さを示す数値(+1に近いほど強い関係)


■担当研究員のコメント
「愛着」「誇り」「行動」は主従関係にあるものではなく、
いずれかを起点に相互に影響し合いながら、
人々の地域への意識を深めていく関係にあります。
観光推奨・受容を高めるという観点で考えれば、
その循環を動かす入口のひとつとして
「地域に関わる行動」を起点に据えるアプローチが考えられます。

例えば、高校では探究学習の広がりもあり、
地域の課題を題材に学び、地元イベントの企画や発信に取り組む観光教育が広がっています。
こうした学びの体験が行動のきっかけとなり、地域への親しみや誇りの芽を育て、
「自分のまち・地域ともっと関わりたい」
「自分のまちに来てほしい」
という意識へとつながっていきます。

また、地域外からの移住者やUターン者の存在も、この循環を支える重要な要素です。
移住者・Uターン者は地域に関わる意欲が高く、地域への愛着も高い傾向にあります。
地域を客観的に見つめた経験もある彼らを、
「地域の語り手」や「次世代ナビゲーター」として活かす仕組みを整えることで、
地域に新しい視点と関係性が生まれます。

観光教育や移住者・Uターン者との協働など、
地域に関わる“行動”を生み出す多様なきっかけづくりが、
結果として愛着や誇りを高め、観光推奨・受容を育てる力になります。
観光を軸に、地域の内と外がともに関わり合う場を増やしていくこと。
それが、ご当地愛の循環を動かし、
地域の持続性を高める新たな戦略になるのではないでしょうか。



研究員 池内 摩耶(いけうち まや)

▼調査報告書の全文はこちら
https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2025/10/report_gotochi2025.pdf

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