はじめに ― 現場で感じた「新しいインバウンドの形」
JRC研究員の松本百加里です。
私は10月初旬に福岡で開催された「Colive Fukuoka 2025」に参加してきました。
世界中からデジタルノマド(オンラインで働きながら世界各地を旅する人々)が集う
このプログラムは、新しい滞在スタイルを体現するものでした。
現地で印象的だったのは、参加者たちが
「どこに行くか」よりも「誰とつながるか」を重視していたことです。
スタートアップ関係者やIT系の仕事をする人が多く、
世界中の仲間と再会するように旅をしています。
コミュニティを通じて移動し、地方に滞在しながらも地域文化や人との交流する姿を見て、
インバウンド地方分散を促す高いポテンシャルを感じました。
そして、これまでの観光やワーケーションとは異なる、
“人を軸にした新しいインバウンド”の形が見えてきています。
住吉神社の能楽殿でメインプログラムの「Colive Fukuoka Summit」を開催デジタルノマドとは ― 自由とつながりを軸に生きる人々デジタルノマドとは、インターネットを活用しながら、
世界のさまざまな場所を移動して働く人々を指します。
主な職業は
エンジニア、デザイナー、マーケター、コンテンツクリエイターなどのIT・デジタル系。
平均年収は約6万〜8万ドル(日本円で約900〜1200万円)と高く、
滞在先を選ぶ際には
「人とのつながり」「暮らしやすさ」「文化体験」
を重視する傾向があります。
彼らは世界各地にコミュニティを持ち、
同じ価値観を共有する仲間との再会を目的に移動する人も多くいます。
有名観光地よりも、“自分らしく過ごせるローカル拠点”を求めているのが特徴です。
実際に話を聞くと、
「生きがいを探している」
「より自分らしい働き方を模索している」
という声が多く聞かれました。
デジタルノマドのコミュニティは、まさに
“つながりの連鎖”によって成り立っていると感じました。
Colive Fukuokaがつくる“グローバルノマドの交流拠点”福岡市は、2023年からデジタルノマドの誘致に取り組んでおり、
2025年で3年目を迎えた「Colive Fukuoka」は、
今やアジア最大規模のノマドコミュニティ・プログラムに成長しています。
2024年には45の国・地域から436名が参加し、平均滞在は17日間。
地域経済効果は約1.1億円にのぼりました。
2025年は480名(10月時点)と前年を上回り、コミュニティ登録者数は1,000名を突破。
国・地域の構成は
日本人45%、アメリカ7.6%、台湾5.7%、タイ3.27%、ドイツ3.27%、カナダ2.4%、
イギリス2.4%、オーストラリア2.18%と多様で、
スタートアップ関係者やIT企業勤務者が多く見られました。
日本人率が高いのも福岡の特徴で、地元の人と海外ノマドの交流の場としても大きく寄与しています。
福岡市は民間企業とも連携し、スタートアップ支援や地域連携プログラムを展開し、
「ノマドが働き、暮らし、つながる都市」として、世界から注目を集めています。
「Colive Fukuoka2025」参加者構成プログラム概要と人気テーマ仕事の合間に自由にセッションや体験に参加できる構成も特徴的で、
代表的な6つのコンテンツは以下の通りです。
● Colive Fukuoka Summit:「これからのライフスタイル」をテーマに、
国内外の専門家が“生きがい”や“道(DO)”を語り合う国際カンファレンス。
● Synapse Festival:能古島の自然を舞台に、音楽・アート・ヨガなどを通して創造性を解放するカルチャーフェス。
● RAMEN TECH:西日本最大級のスターアップ・カンファレンスとして同時期に開催され、
スタートアップブース展示、投資家や大手企業とのネットワーキングなどが展開。
RAMEN TECHとの連携によりトークセッションやブース展示などを実施。
● サイドイベント:起業家や学生、地域住民による小規模イベント。アート、食事会、カラオケなど多彩な交流が展開。
● 道(DO)体験:茶道や書道を通じて、日本の精神文化を体験しながら内省するプログラム。
● エクスカーション:福岡近郊の山や海、温泉を巡る地域体験ツアー。
自然を通じて“次の滞在地”を見つけるきっかけづくりに。
中でも特に人気が高かったのは、
ご祈祷・禅・温泉・サウナといった「心を整える日本体験」でした。
神社でのご祈祷には多国籍の参加者が集まり、
禅体験では早朝の静けさの中で心を落ち着ける時間を提供。
また、温泉・サウナは“ととのう”体験を通じて文化を超えた交流が自然に生まれており、
「癒し×つながり」が新しい観光価値として機能していました。
「RAMEN TECH」期間中に福岡市のグローバルスタートアップ推進課が主催した
「RAMEN TECH Global Summit 」の舞台でピッチするデジタルノマド
インバウンド地方分散への大きな可能性デジタルノマドの大きな特徴は、
「人とのつながりを求めて訪れる」ことにあり、
知名度の高い観光地でなくても、仲間やコミュニティがあれば地方部へと自然に足を延ばします。
実際に福岡の参加者は、WhatsAppやTelegramなどでグループチャットを作り、
「どこの温泉がいいか?」「地方でおすすめのカフェは?」「近くに良いジムはあるか?」など、
リアルタイムで情報交換をしていました。
実際に私も会話する中で、
「福岡から行きやすいおすすめの温泉地や観光スポットを教えて」
と言われることも多かったです。
このような場で、地域ならではの情報を英語で発信するだけでも、
周遊や長期滞在の促進につながると感じました。
また、参加者の多くはSNSでの発信力が高く、
自らの滞在を写真や動画で共有しています。
地方の魅力が海外へ波及する“二次拡散効果”も期待することができ、
デジタルノマドは、
長期滞在者であり、リピーターであり、発信者でもある存在になりうると思います。
地域が整えるべき環境こうしたデジタルノマドを受け入れるには、まず「理解」から始めることが大切です。
彼らの働き方や価値観を地域関係者が知り、共通の認識を持つことが第一歩となり、
その上で次のような環境整備が求められます。
これらを整えていくには、官民連携での推進も重要になります。
<受け入れ整備の例>
● 安定したWi-Fi環境と、長時間利用できるワークスペース
● コワーキング・コリビングスペースの整備
● 1〜3か月単位の長期滞在プラン
● 英語でのコミュニティサポート体制
● 地域ならではの独自体験プログラムの提供
おわりに ― 福岡から日本各地へColive Fukuokaで感じたのは、デジタルノマドの誘致は一過性のイベントではなく、
地域と世界をつなぐ“関係人口づくり”のきっかけとなっていくということです。
そして、旅行の形そのものが多様に進化していることも、現地でひしひしと感じました。
福岡開催のあとは、広島・金毘羅・名護・下田など各地で開催され、
日本を横断するノマドコミュニティも形成されつつあります。
福岡から始まったこの潮流が、今後は日本各地へと広がり、
新しい形で地方分散に寄与していくことを期待します。

「Colive Fukuoka 2025」の視察記事を担当した
松本百加里研究員の研究内容は下記より確認ください。
インバウンド旅行者の主要周遊ルート調査2025
https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2025/04/report_inbound-route2025.pdf
インバウンド都道府県ポジショニング調査2025
https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2025/08/report_inbound-positioning2025.pdf
インバウンド市場の注力ターゲット調査2025
https://jrc.jalan.net/wp-content/uploads/2025/04/report-inboundtarget2025.pdf