• 2018/03/22
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
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コクリ!の深い話(10)いまの日本に必要なのは「魂の脱植民地化」プロセスだ ●田原真人さん

“反転授業の研究”“ZOOM革命”などを展開し、コミュニティの自己組織化を探究している田原真人さんに、「自己組織化コミュニティの作り方」や「全力を出すことの重要性」などについて伺いました。

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第10回です。今回は、テクノロジーを利用することによって学習者中心の学びを作り出していこうと考えている人が、対話を通してアイディアや理解を深めていこうというグループ「反転授業の研究」、Zoomを使ったオンラインの場創りの基礎知識やオンラインコミュニティに与贈循環を自己組織化させる方法を伝える「ZOOM革命」、物理ネット予備校「フィズヨビ」などを展開する自己組織化ファシリテーター、オンライン教育プロデューサーの田原真人さんにお話を伺いました。まずは前編です。後編はこちら
※研究チーム参加者:愛ちゃん(三田愛/じゃらんリサーチセンター研究員)、賢州さん(嘉村賢州さん/NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 代表理事)、洋二郎さん(橋本洋二郎さん/株式会社ToBeings 代表取締役社長)

コミュニティの自己組織化は科学では語りきれない

賢州 僕は田原さんのコミュニティの参加者でもあるので、ある程度知っているのですが、まずは自己紹介も兼ねて、田原さんの活動について教えてください。

田原 ここでは簡単に説明します。より詳しく知りたい方は、公式ブログ自己紹介のページを見ていただけたらと思います。僕はもともと、大学院で粘菌の自己組織化を研究していました。科学的に生命の働きを明らかにしようとしていたんです。その後、物理の予備校教師や物理ネット予備校「フィズヨビ」をやっていたのですが、3.11を契機に、人々の分断を乗り越えるためのファシリテーション、対話プロセスに興味を持つようになりました。そうした場でコミュニティの自己組織化に触れるうちに、科学で自己組織化を語ることの「限界」が見えてきたんです。科学では語りえない「怪しい領域」に踏み込まない限り、自己組織化の本質には触れられないことがわかりました。しかし、スピリチュアルや宗教の側面から語り得ぬ領域に踏み込むと、周囲は拒否反応を示してしまう。どうしようかと困っていました。

田原真人さん

そこでヒントになったのが、東大教授・安冨歩さんの「合理的な神秘主義」という考え方でした。安冨さんは、生命が持っている、世界を認識し、自分自身を作り替えることで柔軟に対応する能力を「神秘」あるいは「魂」と位置づけました。そして、これらは語り得ぬものの領域にあるが、この神秘的な生きる力を阻害するものは語り得る領域にあるので、それを合理的に解明し、解除することを目指すと言います。合理的に語れない領域に対して、合理的にアプローチする方法があるというのが、とても大きな気づきでした。

コミュニティの自己組織化に関わるようになったきっかけは、2012年末にオンライン上でスタートした「反転授業の研究」でした。当時は、MOOCsが出てきて、反転授業やアクティブラーニングなどの「学習者中心の学び」「対話型教育」が話題になっていた頃でした。そこで僕が「反転授業を研究しませんか?」とFacebookで呼びかけたところ、学習者中心の学びに興味のある先生方がたくさん集まってきました。ところが、僕を含めて、その先生方の多くが、そもそも学習者中心の学びを経験したことがないんですね。じゃあ、まずみんなでやってみようとオンラインでワークショップを始めました。それ以来、1カ月・30~40名単位でワークショップを繰り返しているうちに、様々なドラマが生まれて盛り上がっていき、人数も増えていきました(現在は4600名ほど)。教師が50%、それ以外の方が50%で、主に先生たちのコミュニティですね。最近は外部とのコラボレーションも進めています。

2016年からは、反転授業の研究コミュニティの経験を基に新たなことを始めました。それが「自己組織化コミュニティの作り方」という講座です。僕の知識やノウハウのすべてを16本の動画にまとめて、その動画を教材にしながら、100名で2カ月間のワークショップをしたんです。それ以来、半年ごとにこの講座を開催していて、参加者コミュニティも大きくなってきました。経営者、コミュニティリーダー、ファシリテーター、教師など、多様なメンバーが集まっています。

さらに最近、新たな取り組みとして「自己組織化する学校」の準備グループを立ち上げました。これは子どもが行きたくなるオンラインの学校を子どもと一緒に作ろうというプロジェクトで、不登校の子どもたちなどと一緒に、学校を自己組織化することを目指しています。オンラインスクール、フリースクールと相補的な関係を作ること、自己組織化する学校の社会現象化という3本柱で準備を進めています。

それから一方では、つながる力を増幅するテクノロジー・ZOOMを紹介する「ZOOM革命」も展開しています。ごくおおざっぱに説明すると、僕の活動はこんな感じですね。一言で言えば、ここ数年はひたすら「コミュニティの自己組織化」を探究しています。

身体の声に合わせて思考を変えていくのが「リフレーミング」

賢州 「コミュニティの自己組織化」はどのように起こるんですか?

田原 僕はZOOMを対話のツールとして使って、オンラインコミュニティを運営しているのですが、そこで一度に数十名から100名のメンバーが動くと、必ずコミュニティは不均一な状態になり、みんなが何かしら居心地の悪さや違和感、心の揺らぎを覚えます。そのうち、何人かが居心地の悪さや違和感を表現するようになります。場合によってはコンフリクトが起きて、激しい言い合いになったりもしますし、トラウマ的反応が生じて、場が荒れることもあります。ですが、その表現やコンフリクトなどを通じて、各自が「リフレーミング(物事を違う枠組みで捉えること)」を起こすことで、ホメオスタシスが働いて、コミュニティは調和を取り戻します。そして、調和を取り戻したとき、コミュニティはすでに自己組織化を起こしていて、これまでとは違った状態に変化しているんです。まとめると、「主体的な動き→ゆらぎ・違和感→表現・コンフリクト→リフレーミング→調和」が、コミュニティの基本的な自己組織化プロセスです。このサイクルを何度も繰り返して、コミュニティは変わっていくんです。

このとき重要なことが2つあって、1つはファシリテーターが「待つ」ことです。コンフリクトやトラウマ的反応などが起きたとき、ファシリテーターや運営側はどうしても上から調整したくなりますが、それでは場の生命が死んでしまい、自己組織化が起こりません。ホメオスタシスが働くのを待つことが重要なんです。例えば、「ここは自由な場です」とコミュニティのメンバーに伝えると、「こんなことをしても大丈夫ですか?」と許容範囲を確認する言動が必ず出てきます。さらにエスカレートして、僕が受け止められない発言や、責任を取れるだろうかと思ってしまうような行動をする参加者も必ず出てくるんです。そこまでいったら、「僕は受け止められないので、誰かお願いします」とか「いまちょっとウッとなったのですが、そのまま揺らいだ状態にさせてください」などと言って、僕はしばらく様子を見ることにしています。すると、そのうち僕にも参加者にもリフレーミングが起きて、問題が解決し、コミュニティが違う段階に入っていくんです。

ZOOM革命

ファシリテーターや運営者は、このプロセスを止めないことが絶対に大切です。僕の場合、最近は「レッドカードが出てからが勝負ですから、まずはレッドカードを目指して頑張ってください!」などと、あえて伝えるようにしています。実際、レッドカードやイエローカードが出ることが、コミュニティの自己組織化には欠かせないと思います。また場の中でコンフリクトが起こったら、その事態に「●●問題」と名前をつけて、みんなで扱えるようにするというような工夫をすることもありますね。

もう1つは、一人ひとりの「身体の声」です。なぜなら、リフレーミングとは、自分の身体と思考の「ズレ」を調整することだと思うからです。身体の声に耳を傾けて、自分が抱いている違和感や心の揺らぎを知り、それに合わせて思考を変えていくのがリフレーミングなのです。ですから、身体の声を無視すれば、リフレーミングは決して起きません。リフレーミングが起こらないようにされている状態が「魂が植民地化された状態」です。

魂の植民地化とは、深尾葉子さんや安冨歩さんが唱えた言葉で、「人間の魂が、何者かによって呪縛され、そのまっとうな存在が失われ、損なわれている」(※2)状態のことです。私は、魂の植民地化の根源は学校教育にあると考えており、その教育システムを「フォアグラ型教育」と名づけました。フォアグラを作る際、人間はガチョウ、アヒル、鴨などの運動の自由を奪い、餌を強制的に大量に食べさせ、脂肪肝になるように仕向けます。私たちは、その脂肪肝をフォアグラとして食べているんです。同じように、いまの日本の学校では、子どもたちに大量の知識を流し込んで育て、子どもたちが社会に出たときに、日本社会はその知識を利用しています。フォアグラ教育のなかで、子どもたちの身体は「お腹いっぱいでもう嫌だ」という拒否反応を起こしていますが、一方で子どもたちの思考は、「食べ続けるガチョウが偉い=勉強を続ける子どもが偉い」という外部のメッセージに従っています。つまり、フォアグラ教育のなかで、子どもたちはリフレーミングを許されないまま、身体と思考のズレに葛藤し、悩み続けているのです。ここで悩むのを止めて、身体の声に耳を傾けなくなった子どもたちが、魂の植民地化に陥っているというわけです。

日本には、こうやって植民地化された魂が数多くあります。コミュニティの自己組織化を起こすには、これらの魂の「脱植民地化」を図らなくてはなりません。いまの日本に必要なのは、「魂の脱植民地化」プロセスなんです。魂の脱植民地化が進めば、コミュニティの自己組織化は進みます。

全力を出すことのブロックを外すことが大切だ

洋二郎 とても面白いお話なのですが、1つ気になるのは、コミュニティの自己組織化を起こせるどうかが、良くも悪くもファシリテーターの能力にかかっているのではないかということです。もしかすると、職人的なファシリテーターでなくては、自己組織化を起こせないんじゃないでしょうか。その点はいかがですか?

田原 それはおっしゃる通りの部分があって、最初は悩みました。当初から、「反転授業の研究」コミュニティの自己組織化に関しては、僕以外でも再現可能なパターンをつくりたいと思っていました。ですが、そのパターンの確立が意外と難しくて、再現できる人とできない人がどうしても出てきてしまうことがわかったんです。そこで僕はやり方を変えました。それが、先ほどもちょっとお話しした「自己組織化コミュニティの作り方」講座で、コミュニティの自己組織化を起こせるメンバーを増やすために、自分の知識やノウハウを16本の動画に全出しして、その動画を教材にして、2か月間のワークショップを試しに行ってみたんです。

僕がつくった16本の動画は、科学的知識やファシリテーション知識が満載で、ときには数式も使っていますから、参加者は皆さん「難しい」「わからない」と言いました。ですが、僕が「わからなくてもいいですから」と言って押し通すと、わからないなりに体感から学ぼうとするメンバー、自主勉強会を開くメンバーなど、いろいろなタイプが少しずつ出てきました。そしてあるとき、ある参加者が「これは田原さんの全力の自己開示だと受け取ればいいんじゃないか」と発言したんです。この一言が、場を変えました。これ以降、メンバーたちが徐々に全力を出すようになっていったんですね。僕の全出し動画を全力で受け止めた上で、自分の全力を発揮して取り組めば、自分なりの自己組織化コミュニティをつくれるんだと、みんなが考えるようになったんです。

このワークショップでわかったのは、世の中には「全力を出すことを恐れている人」が実に多いということです。なぜなら、全力を出すと他人にわかってもらえないとか、マイノリティになってしまうとか、たとえ全力を出しても自分はたいしたことがないという事実と向き合わなければならないといった恐れがあるからです。そのため、全力を出すことのブロックを外すのは決して簡単ではありません。そのことを踏まえた上で、「自己組織化コミュニティの作り方」講座は、お互いに呪縛を解きあって、自己組織化を起こせるファシリテーターやリーダーが育つ場を目指しています。この講座を受けたメンバーたちは、いまも月に1度、自分たちが各自の現場で全力を出してチャレンジし、その結果がどのように出たか、そしてどれほどうまくいかなかったかを共有し、学び続けています。

賢州 それはまさに、コクリ!が目指しているコミュニティのあり方でもあります。田原さんは、そうした場をつくるために「自分がジャンプしてみる」方法を選んだわけですが、ほかに「安心安全な場をつくる」とか、ホラクラシーのように「共通ルールにサインアップする」といった方法もありそうです。

スイッチが入るタイミングやシチュエーションは一人ひとり違う

賢州 ところで、田原さん自身がコミュニティの自己組織化を実験するなかで学んだことは何でしょうか?

田原 たくさんありますが、例えば、スイッチが入るタイミングやシチュエーションは一人ひとり違うということです。最初の頃は、「はい、ワークショップが始まったので、みんなスイッチを入れてください」という感じで伝えていましたし、それで全員のスイッチが入ると思っていました。ところが、やってみてわかったのですが、スイッチには多様性があるんです。最初は必ず、「まず走る人」が動き出して、「動画面白いです!」などと積極的に発言します。次に活動するのが「インクルージョンの意識が高い人」で、彼・彼女たちは「あっちの静かな人たち、大丈夫かな」「みんなが発言できないと、かわいそうじゃない」と立ち上がります。誰かを想うことでスイッチが入るタイプですね。その次に動くのが、第2グループとつながった「あまり盛り上がっていないグループ」で、彼らには「動きが速すぎてついていけない」といった嘆きの気持ちが溜まっていることが多いです。彼らの場合、その嘆きを解放するとスイッチが入るケースが多いですね。そして、最後に、「もう終わってしまう!」というのをきっかけに動き出す人たちがいます。つまり、最初から全員のスイッチを入れようとしても無理で、むしろ放っておけば、場のプロセスの中で、一人ひとりが主体的にスイッチを入れるんです。これは大きな学びの1つでした。

もう1つ例を挙げると、コミュニティのなかで誰かが暴走して、それが原因で大変な事態になって、その後にリフレーミングが起こり、全体が調和を取り戻していくという一連の自己組織化プロセスを体感すると、自分が抱いている違和感をその場に出すことが、コミュニティ全体へのギフトになるという意識が高まります。例えば、おとなしい性格の参加者が、勇気をもって場に違和感を話してみるようになるといったことがよくあるんですね。それを見て、みんなが「おめでとう!」と言ったりしています。これまで、正直に不満を出したりすると、迷惑がられたり、怒られたりしてきたのが、ここではお祝いされるわけですから、全く逆のことが起こるわけです。これは、機械論的な組織と、自己組織化するコミュニティのパラダイムが違うということが、わかりやすく現れているところです。旧来の組織では、自分を抑えることで組織の一員になれたのが、自己組織化コミュニティでは、自分とつながることによって、場のプロセスとつながり、コミュニティにいのちが宿っていくのです。

※1:安冨歩『合理的な神秘主義』青灯社
※2:深尾葉子『魂の脱植民地化とは何か』青灯社

田原真人さん
自己組織化ファシリテーター、オンライン教育プロデューサー、「反転授業の研究」代表、「フィズヨビ」代表。早稲田大学理工学研究科博士課程で生命現象の自己組織化について研究後、河合塾の物理講師になり、2005年に物理ネット予備校(フィズヨビ)を立ち上げる。反転授業との出会いをきっかけに、ピラミッド型の社会システムや教育システムに疑問を抱くようになる。自らの学び場を自分で創るために「反転授業の研究」を立ち上げる。そこで対話を通した自己組織化と出会ったことで、学生時代に学んだことを生かせるようになった。オンラインコミュニティに自己組織化が起こり、集合知→価値創造→価値提供の循環を生み出せるようになった。その体験を分かち合うために自己組織ファシリテーターとしての活動を始める。

 

コクリ!の深い話(6)気づいたら「コクリ!が当たり前」の社会になっているのでは ●宮城治男さん

 

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第6回です。特定非営利活動法人エティック 代表理事・宮城治男さんに、コクリ!プロジェクトの現在と将来について伺いました。聞き手は直樹さん(太田直樹さん)です。

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