• 2018/02/08
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Photo by AKANE AOE

コクリ!の深い話(9)成長の呪縛から解放されるには「粋」を志向すればよい ●黒﨑輝男さん

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズです。

今回は、「IDEE」の創始者、『スクーリング・パッド/自由大学』の創立者であり、最近では「Farmers Market @UNU」「COMMUNE 2nd」「IKI-BA」「みどり荘」などの「場」を手がけている黒﨑輝男さんにお話を伺いました。

※研究チーム参加者:愛ちゃん(三田愛/じゃらんリサーチセンター研究員)、洋二郎さん(橋本洋二郎さん/株式会社ToBeings 代表取締役社長)、直樹さん(太田直樹さん/前総務大臣補佐官)

自分で自由に何をするかを決める「自由人」が世界中に増えてきている

直樹 黒﨑さんは、いまの時代をどう捉えていますか?

黒﨑 世界的に見れば、ワクワクする面白い時代だと思います。劇的に価値観が変わってきていて、革命的なことが起きています。例えば、「働き方」が変わってきていますよね。僕は昔から、自分で自由に何をするかを決める「自由人」でありたいし、最近は僕と同じような考えを持つ人たちと一緒に仕事をするようにしています。そういう自由人が、世界中に増えてきていますよ。僕が関わっているファーマーズマーケットCOMMUNE 2ndに集まってくる若者も、自由人が多いですね。ただ、日本はまだ封建的で古いシステムが強いから、世界の変化スピードと比べれば相当遅れていると思いますが。

黒﨑輝男さん

革命的な変化については、私の周りにいくつか事例があります。一つ挙げると、最近、ファーマーズマーケットのメンバーが石川県小松市滝ケ原町に移り住んで、TAKIGAHARA FARMを始めました。ここのメンバーたちは、貨幣経済を半ば捨てつつあります。彼らが追求しているのは、お金を使わずに、お金に縛られずに、いかに豊かに生活するか。いわばユートピアを目指しているわけです。彼らの姿を見れば、年収が低くても、上昇志向など持たなくても、楽しく暮らせることがすぐにわかります。日本中に耕作放棄地があるんだから、それを有効活用すれば、彼らと同じような生活をするのは難しくありません。

直樹さん(太田直樹さん)

洋二郎 おっしゃっていること、よくわかります。実は、コクリ!2.0は「自然農メタファー」でコミュニティデザインをしています。参加者たちが、自分たちの力だけで新たなコミュニティを創ったり、社会を変容させたりする方法を追求しているのです。

黒﨑 海外には、自然農のようなコミュニティを創っている人がたくさんいますね。たとえば、日本で6年、盆栽を学んだアメリカ人が立ち上げた「bonsai mirai」というコミュニティがあります。彼を中心としたメンバーは、アメリカの木を使って、自分たちなりの盆栽をつくっているのですが、その制作風景をどんどんストリーミングしていったところ、たちまち1000人規模の月額コミュニティができ上がったんです。アメリカ的盆栽をつくることで経済的に成立していて、ビジネスをどんどん拡大しています。最近では、作品をコレクターに売ったりもしていますね。僕たちはいま、彼らのビジネスを参考にして、TAKIGAHARA FARMで石川県が誇る金継ぎや漆器、陶器や和紙などのコミュニティをつくれないか模索しているところです。これらのコミュニティが確立できれば、アーティストや職人さんたちに新たな仕事を提供できるはずですし、TAKIGAHARA FARMを訪れる人も増えるでしょう。

良い発酵を起こすような環境を作ることに興味がある

直樹 ファーマーズマーケットについて、もう少し詳しく教えてください。

黒﨑 ファーマーズマーケットは、僕たち運営側が出店者の皆さんと直接お会いして、意志や考え方やライフスタイルが僕たちと合う人たちだけを集め、さまざまなマーケットを開催しています。そういう個人は、実は日本中にいるんですよ。

そういう風にしているから、ファーマーズマーケットではさまざまな実験ができるんです。例えば、僕らは実験的に地域通貨を発行しています。今後はブロックチェーンを学んで、通貨も創ってみたいと思っています。あと、僕は以前から発酵に興味があります。文化が発酵して文明ができるのだと思っているところがあって、仲間たちと一緒に「発酵フェス」や「青山パン祭り」なんかを開いたりもしているんです。欧米では、パン屋さんが休みを取るときにイースト菌を「イーストホテル」に入れるくらい、パンにとってはイースト菌が大事なんです。それで、有名パン屋のイースト菌を顕微鏡で覗いてみたりしてね。こういうことを研究していくのは実に面白い。僕は何であれ、良い発酵を起こすような環境を作ることに興味があるんです。

直樹 教育に関しては、どのような関心がありますか?

黒﨑 ファーマーズマーケットでは、年末に「FOOD TO THE PEOPLE」というふるまいのイベントをしています。渋谷近辺にも、食べ物が十分でないストリートチルドレンがけっこういるんです。彼らにふるまうことから始めたイベントです。直接教育に関わっているわけではないけれど、こうした取り組みはしていますね。また、教育とは少し違うけれど、ファーマーズマーケットでは日本最大規模の保護犬譲渡会なども開催しています。これからもある種のユートピアとして、こうした事例をたくさんつくっていこうと考えています。

洋二郎さん(橋本洋二郎さん)

コ・クリエーションも今の人たちにカッコよく映るようにしていけばよいのでは

直樹 ところで、貨幣経済には「成長の呪縛」があるように思います。私たちは、そこからどうやって解放されたらよいのでしょうか?

黒﨑 僕は以前、イデーという会社を経営していましたが、大きくなると、どうしても学歴の高い人たちが安定を求めて入ってくるようになりました。しかし、こうした価値観が増えるのは面白くありません。それで僕は、いまは自分の会社を数十人規模に留めています。それから、人を労働力として見る考え方もあまり良くありませんね。僕には、こうした考えとは正反対の価値観を持った若者を育てたいという想いがあります。成長の呪縛から解放されるには、こうした右肩上がりの上昇志向の価値観、人を労働力として見る価値観を捨てて、「粋」な暮らしを志向したらよいと思います。それは、頭の中にある考え方をちょっと変えれば、十分可能なことだと思いますよ。

洋二郎 粋について、もう少し詳しく教えてください

黒﨑 僕がカッコいい、羨ましい、粋だと思う人は、皆さん「どうせ私たちは死ぬ」という伝統的な無常観を根底に抱きながら、余白のある暮らしを送っています。例えば、お金はいくらでもあるけれど、それを見せびらかすことなく、隠居して囲碁なんかをして暮らす。それが粋な生活というものです。そういう価値観の若者を増やしたいんです。

洋二郎 そうした価値観に変わっていくためにどうしたらよいのでしょうか?

黒﨑 やはり一番速いのは、海外を見て回ることだと思いますね。僕は10代から旅行ばかりしていて、いまもしょっちゅう世界に出ています。僕にとっては、地球のあちこちにいる友達に会いに行って話をするのが一番の勉強です。なぜみんなそうしないのかと思いますね。

直樹 日本でも、ミレニアル世代はまさにそういう価値観になってきているように思うのですが、その点はいかがですか?

黒﨑 おっしゃるとおりですね。僕が言うまでもなく、ミレニアル世代の価値観は変わってきていると思います。アメリカには、自ら起業した会社を何千億円でバイアウトして、毎日サーフィンをしている若者がいますよ。彼のような存在を見かけると、だんだん自分の感覚が世の中に合ってきたと感じますね。

結局、カッコいい働き方や生き方をどんどん創っていくことがもっとも大事でしょう。なぜなら、カッコいい大人、面白い大人から、面白いものが生まれるからです。ではどうしたらよいかといえば、僕が話したように海外から学んだり、あるいは江戸時代の自然との関わり方など、日本本来のカッコよい考え方や生き方を思い出したりすることが必要だと思います。皆さんがやっているコ・クリエーションも、昔の農村社会では普通に行われていた大事なことでしょう。それを新しく、今の人たちにカッコよく映るようにしていけばよいのではないでしょうか。

インタビューを終えて

直樹 お話を伺って、パラダイムシフトをずっと実践している人なのだなと思いました。実は、コクリ!プロジェクトのアドバイザー、ボブ・スティルガーさんは、ポートランドの元祖ファーマーズマーケットの共同創業者でもありますが、パラダイムシフトを信じるという点で、黒﨑さんとボブさんには共通するものがあるように感じました。黒﨑さんは、ほとんどメディアに出ることがないのですが、あるインタビューで「答えのないものへの問いかけ」というキーワードを話していたのも印象に残っています。

洋二郎 黒﨑さんのお話をよく伺うと、実はコクリ!の考え方と近いのです。立ち位置や思考プロセスには違いがありますが、粋な生き方の追求や世界の変化への見方など、根底的には僕たちとほぼ同じ方向を向き、同じように世界を捉えていらっしゃると感じました。黒﨑さんがすごいのは、それを個人の類まれなセンサーで感じ取り、考えていらっしゃることです。世界の最先端に立ち続けることができれば、一人でもこうした変革を進めていくことが可能なのだと知りました。

 黒﨑さんは、まさにGIプロセスを地で生きている方だと思いました。「粋」は一種のGI(=新しい価値観)と見ることができます。そうしたGIを見つけるために、アンノウンと出会う旅を大事にされているのもステキです。

黒﨑輝男さん
1949年東京生まれ。「IDEE」創始者。オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に『生活の探求』をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開。東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。2005年流石創造集団株式会社を設立。廃校となった中学校校舎を再生した『世田谷ものづくり学校(IID)』内に、新しい学びの場『スクーリング・パッド/自由大学』を創立。「Farmers Market @UNU」「COMMUNE 2nd」「IKI-BA」「みどり荘」などの「場」を手がけ、新しい価値観で次の来るべき社会を模索しながら起業し続けている。

 

コクリ!の深い話(6)気づいたら「コクリ!が当たり前」の社会になっているのでは ●宮城治男さん

 

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第6回です。特定非営利活動法人エティック 代表理事・宮城治男さんに、コクリ!プロジェクトの現在と将来について伺いました。聞き手は直樹さん(太田直樹さん)です。

PAGE
TOP