• 2017/12/12
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
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コクリ!の深い話(8)ノーイシューなのに参加者が船から降りないコミュニティは面白い●入山章栄さん(後編)

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第7回です。

今回は、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』に「世界標準の経営理論」という連載を持ち、いくつものサイトで対談連載を抱える気鋭の経営学者・入山章栄さん(早稲田大学ビジネススクール准教授)のところに研究チーム4名で押しかけ、コクリ!2.0についてお話ししてきました。コミュニティ、ビジョン、センスメイキング理論、アナロジーなど、さまざまな話に花が咲いた濃密な2時間の模様を文章でお届けします。こちらは後編です。

※研究チーム参加者:愛ちゃん(三田愛/じゃらんリサーチセンター研究員)、賢州さん(嘉村賢州さん/NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 代表理事)、洋二郎さん(橋本洋二郎さん/株式会社ToBeings 代表取締役社長)、直樹さん(太田直樹さん/前総務大臣補佐官)

「半自立型システム」の組織は日本ではかなり珍しい

 私たちは、2016年末からコクリ!プロジェクトの延長線上に、「コクリ!2.0」という研究プロジェクトを立ち上げています。まさにいま、話題に上った海士町で「コクリ!海士プロジェクト」という実証実験を進めています。その紹介映像がありますので、ご覧ください。

入山 面白い映像でした。特に興味が惹かれたのは、コクリ!の場は、すでに特定のリーダーに頼らない「自立型システム」になっているのではないかということです。日本には、まだまだ自立型システムのコミュニティや組織が少ないのが実情で、リーダーがいなくなったら成立しないコミュニティがほとんどです。僕の『ハーバード・ビジネス・レビュー』の連載についての勉強会がおかげさまで人気があると言いましたが、この勉強会も僕がいなければおそらく行われないでしょう。コクリ!の場は、その辺はどうなのでしょうか?

入山章栄さん(早稲田大学ビジネススクール准教授)

賢州 現状は「半自立型」だと思います。愛さんが強い想いを持って立ち上げたものですし、愛さんなしでは動かなくなる部分も多いと思いますが、その一方で、コクリ!メンバーたちがそれぞれタッグを組んだりして、自立的に行動している面も最近は大きくなってきました。

入山 今日、ここにいらっしゃっている皆さんも、それぞれ自分ゴトで、自分なりの言葉で語っていますよね。それぞれ自立的に考え、動いている。

 それがどんどん加速している感じがあります。

洋二郎 実をいえば、僕らはまさに、どうしたら地域に自立型システムのコミュニティをもたらすことができるのか、その初期条件を研究しているところです。その秘密がわかれば、日本に自立型システムを増やすことができると思います。

入山 素晴らしいですね。ぜひ秘密を解いて、日本に自立型システムが増やす方法を編み出していただけたらと思います。

僕らは行動しない限り自分が何をしたいのかがわからない生きもの

入山 ところで、いま最も課題に感じていること、最もチャレンジしたいと思っていることは何ですか?

洋二郎 ノーイシューの中から、どういったチェンジを出せばよいかということですね。

賢州さん(嘉村賢州さん/NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 代表理事)

入山 そこは映像の中でも気になったのですが、必ずチェンジを出さなくてはならないのですか? いまの世界のままで、違和感のない人もいるのではないかと思うのですが。

洋二郎 個人的には、ものごとは変えるものではなく、無常の世界のなかで変わっていくのだと思っています。自分の体の状態を知れば、自然と生き方が変わっていくというのが、僕の捉え方です。

直樹 あくまでも個人の変容からスタートして、そのなかから、必要だと感じるアクションを起こしていけばよいというのが、コクリ!の考え方。ですから、必ずチェンジを出さなくてはならないとは思っていません。

 ただ、次の時代のうねりを生み出していきたいという想いはあります。

愛ちゃん(三田愛/じゃらんリサーチセンター研究員)

賢州 問題解決時代の次のアプローチを考えるなかで、いろいろと模索しているというのが現状ですね。

直樹 模索の一環としては、たとえば、事業開発やクリエイターの創造プロセスを観察して、参考にしようとしたりしています。

入山 わかりました。そういったことで言えば、僕のお勧めは「センスメイキング理論」です。実は、センスメイキング理論を紹介した回が、これまでの『ハーバード・ビジネス・レビュー』の連載で最も反響の大きかったんですよ(第25回・「未来はつくりだせる」は、けっして妄信ではない)。きっと皆さんも関心があると思います。

センスメイキングとは「意味付け・納得」という意味で、センスメイキング理論とは、簡単に言えば、組織のメンバーやステークホルダーを納得させ、いま何が起きていて、自分たちが何者で、どこに向かっているかの「意味付け」を集約させることです。つまり、物事の「ストーリー性」が重要だという理論ですね。僕は、今の日本に一番足りないのは、センスメイキングできるリーダー、壮大なビジョンを掲げ、多くの共感を呼び起こし、ストーリーによって意味づけして、周囲を腹落ちさせられるリーダーだと思います。わかりやすく言えば、孫正義さんのような方ですね。

また、この理論に関連するものに、ミンツバーグの「戦略クラフティング」があります。ミンツバーグが言っているのは、僕たちは戦略をプランニング(計画立案)しているのではなく、戦略をクラフティング(創作)しているのだということです。とりあえず始めてみない限り、自分が何をしたいのか、何を創りたいのかわからないということ、やってみてはじめて「自分はこういうことがしたかったのだ!」というストーリーが見えてきて、自分のやりたいことが腹落ちするのだということです。つまり、まずアクションありきだということですね。先ほど、「ビジョンの後づけ」の話をしましたが、ビジョンを後づけするタイプの経営者は、まさに戦略クラフティングをしているわけです。

何が言いたいかと言えば、皆さんはいま、アクションしながら、何をしたいのか、どうなればよいのかをわかろうとしているのだろうということです。世界を変えなくてはならないのか、世界は意外と変えなくてもよいのか。その辺りの答えも、きっとこれから見えてくるはずです。それと同時に、コクリ!をセンスメイキングするストーリーを構築していったほうがよいでしょう。

評価の高い大統領ほどメタファーをよく使っている

直樹 おっしゃる通りだと思います。これまでのコクリ!の場では、自分の根っことつながる、地域や社会のシステムを感じるというところから、大事な問いが生まれてきました。それらをどうやってストーリーやうねりにしていくのか。現在のコクリ!は、そういうところに差し掛かっています。

入山 つまり、それは、システムセンシングや対話によってイシューメイキングした後の「言語化」「ストーリー化」に困っているということですね。それなら「アナロジー(類推:似ていることに基づいて推測する認知プロセス)」について考えたほうがいいと思います。

「アナロジー」は、僕がいま最も興味を持っているものの1つです。なぜかというと、それはソーシャルネットワーク理論の「ストラクチュアル・ホール」が関係してきます。ストラクチュアル・ホールとは、あるネットワークとあるネットワークの間にある「構造的な隙間」のことです。この隙間に、両方のネットワークから情報が集まってきます。そのため、ストラクチュアル・ホールのところにいる人は、情報をコントロールし、得することができると言われています。たとえば、西洋と東洋をつないだシルクロードの商人や、現代の国と国をつなぐ商社の皆さんは、ストラクチュアル・ホールを上手に利用して、利益を得ています。

ストラクチュアル・ホール

しかし、最近の研究では、ストラクチュアル・ホールを利用するのは、それほど簡単ではないことがわかってきました。つまり、ストラクチュアル・ホールにいる人が情報をコントロールするためには、片方のネットワークの言葉をもう一方に翻訳して、うまく伝えなくてはならないからです。ストラクチュアル・ホール研究の第一人者であるシカゴ大学の社会学者ロナルド・バートは、そのときに重要な一つの要素は「アナロジー」だと言っています。たとえば、ネットワークAの議論とネットワークBの議論が実は似ていることを発見し、AとBの両者にそのアナロジーを適切な例えで説明できたとき、はじめて情報のコントロールが可能になるのです。つまり、違う文化・世界・コミュニティの方々にわかりやすく伝えるというのは、実は大変なんです。ところが、適切なアナロジーで例えられると、一気に伝わることが多い。

実際、アナロジーが創造的な成果を生みだした例は枚挙にいとまがありません。有名な話でいえば、トヨタ生産方式は、大野耐一氏がアメリカのスーパーマーケットの「下流が上流に引き取りに来る」仕組みを自動車生産に採り入れたものですし、TSUTAYAのレンタルビジネスは、増田宗昭氏が消費者金融のビジネスモデルから学んで始めたものです。どちらも、離れたところにある知と知が似ていることに気づき、すなわち類推思考をして組み合わせたものなんです。クリエイティビティにはアナロジーが重要なんですね。

僕がいま、問題に思っていることの1つは、日本のビジネス界に「ファシリテーター」が不足していることです。ファシリテーターの役目は、まさにAとBが似ているというアナロジーを指摘すること。ここの街で起こっていることと、あちらの街で起こっていることが実は近いことだと指摘し、両者を上手に結びつけることです。言い換えれば、日本には、アナロジーを使いこなせる人が少ないか、あるいはいても目立っていないんですね。アナロジーが得意なファシリテーターが増えれば、きっと日本は元気になります。

それから、新たなアナロジーを生み出すためには、「異質なもの同士の出会い」が絶対に必要です。世界や出自がバラバラの人が出会う場が、とても重要なんです。ビジネススクールなども、僕はその点に大きな意味があると思っています。その面から言えば、コクリ!プロジェクトにも、いつも「なんでここにいるの?」という人が一定数混じっていたほうがいいでしょうね。

 コクリ!コミュニティは「漂流船」だとよく言われています。どこに行くかわからないし、一度乗ったら降りられない。でも、なんだか面白そうだから乗ってみようと思う人がいつも出てくる。そんなコミュニティです。異質な方もよく乗り込んできますね。

入山 ノーイシューなのに参加者が船から降りないコミュニティは、極めて面白いと思います。繰り返しになりますが、ノーイシューの対話の場というのは本当に貴重です。だからこそ、ノーイシューに興味を示さない方をあえて引っ張り込んで、受け入れるような努力を続けたほうが良いと思います。

入山章栄さん
早稲田大学ビジネススクール准教授。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。1998年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学し、2008年に博士号を取得。同年、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーに就任。2013年から現職。

 

コクリ!の深い話(6)気づいたら「コクリ!が当たり前」の社会になっているのでは ●宮城治男さん

 

コクリ!プロジェクトやコ・クリエーションに関係する深い話をさまざまな方にインタビューしていくシリーズの第6回です。特定非営利活動法人エティック 代表理事・宮城治男さんに、コクリ!プロジェクトの現在と将来について伺いました。聞き手は直樹さん(太田直樹さん)です。

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