• 2017/06/27
  • Edit by HARUMA YONEKAWA
  • Interview by COCRE!AMA PHOTO TEAM

ここまで反響が大きいのは9年間で初めて ●コクリ!海士プロジェクト・インタビュー(2)べっくさん×岡部ちゃん

2017年4月から始まった「コクリ!海士プロジェクト」について、海士町のべっくさん(阿部裕志さん)と岡部ちゃん(岡部有美子さん)に詳しく伺いました。

2017年4月、「コクリ!海士プロジェクト」が始まりました。どういった取り組みで、何を目指し、何をコ・クリエーションしているのでしょうか? これからいくつかのインタビューをお送りします。第2弾では、コクリ!海士のコアメンバーである海士町のべっく(阿部裕志さん)と岡部ちゃん(岡部有美子さん)に、4月に行われたコクリ!海士2017について詳しく伺いました。なお、お二人は「巡の環」という会社の代表取締役と社員です。

※なお、コクリ!海士プロジェクトの概要は、「コクリ!海士プロジェクトとは?」をご覧ください。また、「コクリ!海士プロジェクト・インタビュー(1)」では、コクリ!側の愛ちゃん&賢州さんがコクリ!海士2017について語っていますので、合わせてお読みください。

聞き手:米川青馬

コクリ!海士を実施すれば 海士町の「面の交流力」を高められると思った

――― コクリ!海士プロジェクトが始まった経緯は愛ちゃんに伺ったのですが、なぜお二人はコクリ!海士を実施したいと思ったのですか?

べっく 愛ちゃんには、以前から何度かコクリ!海士のアイデアを提案されていましたが、その頃はあまり乗り気じゃありませんでした。僕だけがリードする形で進めても、きっと良い成果につながらないと思ったからです。でも、2016年の夏、愛ちゃんと岡部ちゃんと僕で改めてコクリ!海士の話をしたとき、岡部ちゃんが自ら「やりたい!」と言ってくれたのですね。このとき、岡部ちゃんが想いを持って進めていくなら、きっとうまくいく気がしました。岡部ちゃんがやりたいということは、きっと多くのメンバーがやりたいということだし、岡部ちゃんが中心となって巡の環(べっくさん・岡部ちゃんたちの会社)のメンバーが主体的に動いてくれれば、コクリ!の「面」を海士町の「面」で受けられると思ったからです。

べっく(阿部裕志さん)

岡部 私がコクリ!海士を開きたいと思った一番の理由は、今のべっくさんの話ともつながっているのですが、海士町の「面の交流力」を高めたかったからです。海士町は経営方針として「自立・挑戦・交流」を掲げるくらい、町外との交流を大事にします。実際、海士町の挑戦は島外の交流の力を借りて大きくしてきたものがたくさんあります。ですが、現状の交流力は決して持続可能な状態じゃない。その状況を何とかしたかったんです。

べっく もう少し詳しくお話しすると、現在の町外との交流は、町長や役場の課長たちをはじめとした特定のメンバーに大きな負荷がかかっている状態なんです。そのメンバーだけで町の交流を支え続けるのには無理がありますし、そもそも町長や課長の皆さんが引退する日も決して遠くはありません。このままなりゆきで進めば、海士町の交流力は確実に弱まってしまいます。そこで、「交流に参加する町民の方を増やして、面の交流力を高めたいね」という話を、岡部ちゃんたちと話していたところでした。そこで、コクリ!海士を開催すれば、みんなきっと交流に前のめりになるはずだと思ったわけです。

優れたマネジャーに触れてもらえる 良い機会にもなると思った

――― そのほかに、コクリ!海士プロジェクトで解決したかったまちの課題はありませんでしたか?

岡部 海士町では、2015年に海士町創生総合戦略「海士チャレンジプラン」を策定したのですが、その際に、住民・役場職員の若手有志による「明日の海士をつくる会」(通称:あすあま)を設置しました。町長や課長が次世代に計画や実践を委ねてくれたことにより、この2年を通じて、あすあまメンバーがこれからの挑戦や交流の中心を担うべく、成長を遂げてきました。こうしたうねりをあすあまメンバー以外にも広げていきたい、という想いが強くありました。

岡部ちゃん(岡部有美子さん)

べっく 町の課題はいくつもあるんですが、1つに絞るとすれば「人を活かすマネジメント」です。結局は、これに尽きると思います。なぜかといえば、誰かが本領発揮すれば、解決できる問題がたくさんあるからです。ですから、僕たちが皆に本領発揮してもらうためのマネジメントを学ぶことが、多くの問題を解決する何よりの方法なんです。ただ、マネジメントを学ぶのはお金がかかることで、海士町のようなところではなかなか機会を作るのが難しい。その意味で、コクリ!海士2017は、まちの皆さんに優れたマネジャーたちに触れてもらう良い機会でもありました。今回のコクリ!メンバーの中には、企業の経営者や元経営者やビジネスリーダー、優れたファシリテーターやコーチ、他の地域をリードする地域リーダーの方などが何人もいました。彼らが相手の話に深く耳を傾ける姿勢、どこまでも相手に寄り添うスタンスを見て、刺激を受けた海士町メンバーは多かったと感じています。

人選とグルーピングには本当に悩んだ

――― コクリ!海士2017を開催する上で大変だったことが、きっといろいろあったと思います。特に大変だったことを教えてください。

岡部 開催前に、強く不安を感じたことが2つほどありました。1つは、べっくさんがコクリ!海士のためにあまり多くの時間を割けなかったことです。果たして、これまでコクリ!プロジェクトに参加してこなかった私が中心となって、問題なく準備を進めていけるのだろうかという心配はずっとつきまといました。この不安は、とにかく準備を進めながら、少しずつ解消していくほかありませんでした。

グルーピングの結果、最終的に決まったホームグループ

もう1つは、忙しい海士町の皆さんが、果たして「コクリ!海士」という未知のイベントのために、金・土・日の3日間のスケジュールをまるまる空けてくれるだろうかという不安です。ただ、実際に会いに行ってみると、意外と皆さん、快くOKしてくださいました。多くの方が「べっくと岡部ちゃんが本気で取り組んでいるんだから、参加するよ」と言ってくださったんです。これは嬉しかったですね。

なお、皆さんをお誘いするときには、未来に向けての希望・悩み・課題、コクリ!海士で起こってほしいことなどを、一人ひとりしっかりとヒアリングするようにしました。なぜなら、今回のコクリ!海士の目的は、単に海士町の課題を解決することではないからです。海士町は、あくまでも日本の地域の代表に過ぎません。日本には、海士町と同じような悩みを抱えた地域がたくさんあり、海士の課題の多くは日本の地域の課題でもあります。ですから、海士の課題に向き合うことが、日本や世界の課題に向き合うことにもなる。そうした地域と日本、地域と世界の「待ち合わせの場」をつくることが、今回のコクリ!海士2017の大きな目的でした。そうした場をつくるためには、参加者全員に対してコクリ!とは何かを丁寧に説明し、皆さんがそこで何が起こってほしいと思っているかを知ることが大切だったんです。こうしたヒアリングをベースにして、「ホームグループ(コクリ!海士の3日間を一緒に過ごす、海士町メンバー・コクリ!メンバー混成のグループ)」のマッチングを進めていきました。

べっく 海士町メンバーの人選とグルーピングには、本当に悩みましたね。コクリ!海士にお呼びできる人数には限りがあります。そこにどなたを巻き込むのがいいのか、間に合うギリギリまで考えました。たとえば、まちの未来のためには、30代、40代のあすあま世代が中心となって活発に動いていく空気を作ったほうがよいけれど、同時にもっと上の世代も巻き込まないとうまくいかないのではないか、といったさまざまな迷い・葛藤がありました。

岡部 海士町の中でも、これほどの大人数が一同に集まって、まちの未来やまちづくりについて真剣に話すことはなかなかありません。せっかくのチャンスを最大限に活用できるよう、コクリ!メンバーと海士町メンバーのホームグループの組み合わせはもちろん、海士町メンバー同士の組み合わせもさまざまな可能性を追求しました。たとえば、海士町の中でも普段はなかなか話す機会がない間柄がいくつもあります。そのなかで、この2人がもっと仲良くなったらもっと面白いのでは、といったことに頭を巡らせながら、マッチングしていったんです。

べっく あと、正直なところ、巡の環という会社の経営者としては、社員7名中4名(岡部・川島・角・浅井)がコクリ!海士のスタッフとして関わるという状況は、ハードルが高かったのは事実です。その間、ビジネスに割けるパワーが確実に減るわけですから。4月14日~16日のコクリ!海士2017が終わって、ようやく巡の環の新年度がスタートした感じがありますね。さらにいえば、コクリ!海士プロジェクトは、会社の直接的な収益にはつながっていません。研究開発の一つとして見ていますが、ここまで力を入れて本当に大丈夫だろうかという気持ちはありました。これは今後、他の地域で同様の活動を進めていく際には、きっと浮上する問題だろうと思います。

僕と英治さんのあいだに 「ないものはない大学出版社」のアイデアが立ち上がってきた

――― では、「コクリ!海士2017」の本番はいかがでしたか? 参加者としての感想や体験談を聞かせてください。

べっく 個人的には、3日目の「たとえば未来」で、英治さん(原田英治さん・英治出版代表取締役)と僕とのあいだに「ないものはない大学出版社」のアイデアが立ち上がってきたことが、大きな成果でした。僕はもともと、海士が培ってきた「ないものはない」という思想、考え方を研究し、外部に伝えていく「ないものはない大学」を始めたいと思っていたんです。一方で英治さんは、日本各地に「英治出版のサテライトオフィス」を作りたいと考えていました。そこで英治さんが、「大学出版会を始めるというのはどう?」と言うのです。確かに出版社であれば、出版物を通して、「ないものはない」という思想を研究し、広めていくことができます。出版ビジネスでも僕の当初の目的を達成できるというのは、本当に大きな気づきでした。出版のノウハウは、英治さんが教えてくれるとおっしゃっています。これこそ、まさに「コ・クリエーション」だと感じています。

べっくさん(写真右端)と英治さん(写真右から2番目)のホームグループ

それから、今回は企画から運営まで、岡部ちゃんに海士町側のリーダーロールのほとんどを任せたのですが、全体的に滞りなく運営してもらえました。このくらいの仕事を安心して預けられることがわかったのは、巡の環としても大きな成功体験でした。

岡部 コクリ!海士の3日間が終わって、自分がより大きな視点で海士町を眺められるようになったと感じています。日々の小さな出来事や声を大事に拾いながら、海士の一人ひとりがより良く生きていくことを大切にしながら、彼らと一緒に歩んでいくのが自分のやりたいことだと、さらに強く思うようになりました。最近、自分の限られた命をどう使うかをよく考えていて、このために自分の命を使い切れたらと思っています。

海士町の中で「深い対話」が起きている

――― コクリ!海士2017の後、周囲の変化は感じていますか?

べっく 海士町の参加者の皆さんは、口々に「参加して良かった」「コクリ!海士に声をかけてくれてありがとう」と言ってくれます。ここまで反響が大きいのは9年間で初めてですね。会ったときの親しみ度合いも違っていて、たとえば先日、参加者の一人・わんこちゃん(寺下裕子さん)と偶然会ったんですが、お互いにコクリ!海士のことについて話したくて仕方がないんですよ。また、藤澤さん(藤澤祐介さん)は、ホームグループで一緒になったコクリ!メンバーの皆さんの現場には、近いうちに必ずお邪魔したいと言っていました。「仕事の仕方が変わった」「背中を押してもらえた」といった声も聞いています。僕自身、コクリ!海士で得たものが大きかったのですが、皆それぞれに大きなものを得たようです。

岡部ちゃんのホームグループ。左から2番目が本多さん。

岡部 海士町中央図書館の磯谷さん(磯谷奈緒子さん)は、「図書館でフューチャーセッションを開く」など、以前からやりたかったことができそうだととても喜んでいて、「コクリ!海士はボーナスのようでした」と話してくれました。また、本多さん(本多美智子さん)は、今後は何かチャレンジする時に、ホームグループの仲間たちに頼ることができるのが嬉しいと言っていましたね。さらに言うと、コクリ!海士以降、海士町内で「対話」が起き始めています。変化の種がいくつも生まれつつあるのも耳にしていますし、まだはっきりとは見えませんが、早くも変化の兆しを感じています。

べっく もう1つ大きいと思うのは、コクリ!海士の3日間を通して「お互いの苦しさ」を知ったことです。というのは、島の中では普段、なかなか自分の苦しさを話しにくいものなんです。しかし、コクリ!海士では、全員が「ストーリーテリング(お互いのストーリーに耳を傾けて理解を深めるプログラム)」を体験しました。そこで自分の苦しさ、大変さを吐露したコクリ!メンバー、海士町メンバーも多かったんです。それを聞くことで、苦しいのは自分だけじゃないんだ、島の他の人たちもいろいろと苦しんでいるんだ、東京や他の地域の皆さんもいろいろと大変なんだとわかったんですね。これもまた大きな成果だったと思います。

岡部 同感です。コクリ!海士の後もそれぞれといろいろな話をしています。その中には、辛いと思っていることや、大変だと思っていることの話もあります。少なくとも、こうしたことをさらけ出して大丈夫と思える関係が海士の人たちと築けていることはとても嬉しいですね。

境界線が溶けて 「第三の道」が出てきたのがありがたい

――― 今後、コクリ!海士プロジェクトをどのように展開していきたいですか?

岡部 1人が変われば、周囲も変わり、海士の未来が変わります。コクリ!海士プロジェクトを通して、その変化の輪を広げていけたらと思っています。そのためには、私たち一人ひとりがどういった未来に向かいたいと思っているのか、互いに「聞き合うこと」が大事だと思います。忙しいことも多いですから、どうしても思っていることを周囲に言わないままにすることが多いですが、きちんと互いに向き合う時間を持って、対話を続けることが、海士の将来を明るくすると思うのです。

あとは、4月の3日間に参加していただけなかった皆さんのことが気にかかっています。今後、そうした方をどうやって巻き込んでいくのか。これからの大きな課題です。

べっく 英治さんとの対話で、大学とサテライトオフィスが結びついて「大学出版会」というアイデアになりました。そのように、二者択一や二項対立でどちらかを選ぶのではなく、二者の境界線が溶けて、大学出版会という「第三の道」が出てきたのがありがたかったし、気持ちが良かったです。これからの時代は、そうやって境界線を溶かすことが大事だと思いますし、コクリ!はそうやって境界線を溶かすものではないかと感じています。コクリ!によって、コクリ!海士プロジェクトによって、境界線の溶けた面白い世界を広げることができそうだと見えてきました。

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